9月27日に行われた「第6期食料・農業・農村基本計画」にかかる農水省と
全国有機農業推進協議会の意見交換会に参加してきました。
会場には100名以上の有機農業者や有機農業関係者等が参加していました。

意見交換会は、生産者から意見や要望を伝え、それに対して農水省側が
回答するという形のものです。
協議会からの提言をはじめ、
全国から集まった約20名強の生産者、団体研究者などがコメントを述べました。

これから基本計画策定(令和7年3月予定)に向けて論議される予定ですが、
その前に生産者などの声を届けようという趣旨の会です。
今回の意見交換会以外にも、このような生産者側が国と意見交換する会は開催されています。

今回お誘いを受けたので、どのように国の施策が決まっていくのか、
どう国民の声が反映されていくのかという一端を見たいと思い参加させていただきました。

参加してみて、すべての意見が政策に反映される訳ではありませんが、
生産者の声を直接届けたり、国との対話の場があることがわかりました。

下山理事長と農水省の方々


私は農業生産者者ではありませんし、政策担当者でもありません。
しかし、オーガニックビレッジ事業に関わらせていただいていたり、
長年農と食を繋げる仕事をしてきているので、よりよい支援をするためにも、
いろいろな観点から学ばせていただきたいと思っています。

いつも申し上げているのですが、私のスタンスとしては、
有機農業側とか慣行農業側とか分け隔てるのではなく、
フラットな立場で、農と食が持続可能な形となり、
農と食が繋がるための役に立ちたいと活動をしています。

今回このような意見交換会で、
農水省の考え方や、参加した生産者の方達の意見を直接聞く機会がありましたので、
「国はこんな風に考えているんだ」とか、有機農業者の人達が
今何に憂いているのかということを、お伝えできたらと思っています。

会場に来ていた方々がすべての有機農業者の代表という訳ではありませんし、
有機農業者でも様々な考え方があります。
有機農業者以外の農業者の方々も沢山いらっしゃいます。
また、国のやり方自体に興味関心がない、
国の方針自体に賛同できないという方ももちろんいるでしょう。

ちょっととっつきにくい話で長くなりますが、
皆さんお一人お一人が考えたり、判断する材料にしていただくために、
ほんの少しでも役立てればと思っています。
(長い文章なので、途中で飽きたら辞めていただいても結構です)

意見交換会とは

今回の意見交換会は、全国有機農業推進協議会(理事長 下山久信氏)と農水省が
意見交換をする場でした。
全国から集まった参加者の多くは有機農業者でしたが、
そもそも農業者が直接国に対して意見を言う、話をするという機会は多くはありません。

国を批判するとかそういうものではなく、
現場の現状の説明と意見や提案をして、
これから審議が始まる具体的な内容に反映してもらいたいという趣旨の会でした。

食料・農業・農村基本計画とは?

まず、最初に基本計画について説明をします。

「食料・農業・農村基本計画」は、食料・農業・農村基本法に基づき、
食料・農業・農村に関し、政府が中長期的に取り組むべき方針を定めたもので、
情勢変化等を踏まえ、概ね5年ごとに変更することとされています。

国は、この基本計画を2000年から5年ごとに計画を策定してきています。
来年新しい基本計画がスタートします。

基本法が木で例えると根っこの部分で、
基本計画は、幹みたいなものです。
この基本計画を基にして、具体的な政策が枝葉のように行われていきます

四半世紀ぶりの基本法の改正

根っこの部分の基本法についてもちょっと触れさせてください。
世界及び我が国の食料をめぐる情勢が大きく変化していることを受けて
今年(令和6年)5月に、なんと四半世紀ぶりに基本法が改正されました。

つまり、75年間続いた路線を変えたということは、
これまでの食料・農業・農村に関する基本的な考え方が現状に合わなくなったということです。

今回の食料・農業・農村基本法の改正のポイント

今回の25年ぶりの基本法の最も大きな改正ポイントは二つです。
①「食料の安全供給の確保」から「食料安全保障の確保」へ変わったこと。
「環境と調和のとれた食料システムの確立」という基本理念が加わったことです。

安全供給の確保

「安全供給の確保」と「安全保障の確保」の違いって、わかりにくいですよね。

簡単に説明すると、
「安全供給の確保」とは
  国内生産の増大を図ることを基本に、輸入及び備蓄を適切に
  組み合わせて、食料の確保を図る

「安全保障の確保」とは
  凶作や輸入の途絶等の不測の事態が生じた場合にも、
  国民が最低限度必要とする食料の供給を確保を図る

 (参考:「食料安全保障強化政策大綱(改訂版)
     令和5年 首相官邸食料安定供給・農林水産業基盤強化本部、農水省HPより) 

端的に申し上げると、
これまではどの位輸入したり備蓄するかというバランスを考えて
食料確保を考えればよかったのが、
情勢が大きく変化して、

食料の確保が危うい状況になってバランスをとるどころか、
何としても確保しないといけないと変わったわけです。
(国として危機感をもっているということです。)

環境と調和のとれた食料システムの確立

世界的な気候変動、自然災害、生物多様性への影響などが深刻化していますが、
現在の食料システムでは、生産から流通、加工、消費の各段階において
環境に負荷を与えています。


そこで、環境と環境との調和を基本的な理念として法律に盛り込み、
環境負荷低減の取組を促進していく意図を明確化しました。

水稲が盛んな山形県置賜地域

全国有機農業推進協議会の主な提言内容

今回の協議会としての提言内容についてざっくりと項目と内容を抜粋・要約しました。

■農業政策の中心に有機農業・環境再生型農業を据える
 ・農業者、改良普及員、JA職員の意識改革の必要性
 ・農業大学校に有機農業コースを設置
 ・オーガニックビレッジの推進、学校給食導入を重点的に推進
 ・輸入資源の化学肥料・農薬使用の栽培マニュアルからの脱却
  肥料の国産化
 ・有機種子の推進策の必要性(固定種、在来種も含む)
■食料自給率の向上
 ・食料自給率向上目標の数字の明確化(カロリーベース、生産額ベース、飼料自給率)
 ・食料自給力指標の必要性 → 食料自給率だけでは不充分なので新しい指標の必要性
 ・遊休農地を使った畜産の活性化
■農地の確保
 ・農地は社会的共通資本 個人所有の資産化への懸念、自然環境の保持の視点
■農村の振興
 ・農村の人口減少による地域社会自然環境の保持の重要性
■農業構造、農業労働力
 ・基盤整備やスマート農業など機械化農業だけが農業構造の将来展望を切り拓けるとはいえない
 ・機械のシェアリングや、サービス産業化の必要性
 ・農業者人口の減少の根本的な原因の検証と、食い止めるための具体的な考え方の必要性
 ・長年の工業技術由来の農業技術による生物と有機物の損失への反省が必要
■農業予算の増大
 ・農業予算は国家予算のわずか2% → 農業予算の増加が必要
 ・自給率をあげるためにも、農家を増やす政策や維持する仕組みの必要性(新農家100万戸)
 ・農業の維持を国民運動
■水田農業政策の見直し
 ・非常時における農業生産・食料安全保障の観点から米の政策の見直しの必要性
 ・飼料米の経営所得安定対策助成金の減額への疑問 → 水田潰しになる
 ・田畑輪転作的な土地利用の推進
 ・5年水張りルールへの疑問 → 水田潰しになる
 ・国民の合意形成の必要性 → 水田維持が古来からの米文化を継承していく
■適正な価格形成
 ・雇用構造の変化への対応
 ・農畜産物の取引形態の問題点の検討
 ・生産コストを反映した価格形成の必要性 → 費用の見える化
 ・直接支払制度の導入の検討

※資料と発表から当方が要約したものです。

田畑の多面的機能

意見発表から

協議会からの提言の後に、会場に参加している約20名の生産者や組織の方から意見の発表がありました。
それぞれ地域も生産品目も異なり、具体的な意見や発言内容は異なりますが、
皆さんの憂いている点は、
「担い手」「環境」「農村・地域」「食料保障」問題で共通していました。
特に人手の問題とそれに付随する問題に関する切実な発言が目立ちました。

*農業の担い手の問題
 ・農業人口の減少を補填するために、都市部住民の農業参画
  (二拠点居住や週末農業を推進)
 ・農村部の関係人口の増加を図る
 ・新規就農者を増やすために、有機農業ステーションの設置
 ・生産者維持のために、直接支払いを再生可能な金額にしてほしい

*環境負荷の低減
 ・生物多様性の保全のためのと近い朗報、多面法などの法制度に
  対策や改善を入れるべき
 ・環境保全に貢献する農業への公的支援の予算拡大
 ・生き物調査の必要性

*農村や地域の維持
 ・「お米を食べる」食育の強化
 ・人と人の暮らしと繋がりの維持のための農村や里山文化の継承
 ・農業を身近に感じてもらう「有機農業公園」の設置
 ・生業(なりわい)としての農業の視点の強化

*食料保障
 ・食料増産のためには、自給率を増やす別の指標が必要
 ・水田の一定維持の必要
 ・備蓄米を子供食堂など、困窮している国民に分配できる仕組みが必要
 ・有機と慣行農業が一緒になって食料生産を担っていくという意識の醸成が必要

畑のワークショップ(コートヤード)

オーガニック給食に関する提言

 全国でオーガニックビレッジ事業を展開する市町村が200を超えています。
その9割以上が学校給食における有機農産物の導入を柱としています。
しかしながら、導入にはいろいろな課題があります。
全国有機農業推進協議会理事の高橋氏の提言内容は下記のとおりです。

最後に

とても長い文章になってしまいました。ブログじゃないですよね、、、
お読みいただき有難うございました。
配布資料が長文だったので要約しましたが、なるべく意図が変わらないように
書きましたが、もしかしたら多少意味合いが異なっていたり、
理解しにくい点があるかもしれませんが、ご了承下さい。

これをお読みいただいた方が違和感を持つこともあると思いますが、
ここに記載したものは私の意見ではなく、意見交換会で出た意見の数々です。

最後に、少しだけ私の考え方を述べさせてください。
現代のような複雑で多様性の時代では、
日々の生活や仕事で本当に様々な考え方をする人と向き合わなければならないことがあります。

特に農業関係者は他の産業と比較すると、個性豊かな方々が多いのが特徴なのですが、
個性がありつつも、一緒に課題解決をしていくことがますます重要になっています。

「国の考え方はこうなんだな」と理解することは無駄でないですし、
自分と違う意見の人の話を聞いたり、対話することで、
全部が全部は同意できないけれど、部分的な同意でも繋がっていくことは可能です。
そういうマインドがあれば、ちょっとでも課題は少しでも良い方向に向かうのではないかと
私は考えています。
これまで様々な事業のコンサルティングやワークショップなどを通してその実現の支援をしてきました。

今回の意見交換会に参加してみて、
今、日本の農業が直面している様々な課題はどれも喫緊の課題が多く、
有機とか慣行とかの垣根を越えて考えなければ解決しないということ、
生産者だけでなく、事業者も消費者の一緒になって考えなければなかなか解決できない課題が
沢山あるということを再認識しました。

垣根があると思っていても、
もしかしたら、意外にたいした垣根や障壁ではないのかもしれません。
それをちょっとでも壊していきたいと思っています。