お米がない!とあちこちのメディアで騒がれています。
確かにスーパーの棚にはお米がなかったり、あってもお1人様1個限りとなっています。

この騒動ですが、テレビやネットなどを見ていると、
この問題は、誰がどこの観点から見るかで問題の見え方が違ってくるので、
いろいろな人が、それぞれの立場や考えでコメントしているように思えます。

私はなるべくフラットな立場で、大きな視点で、この問題を捉えて書いてみたいと思います。

稲刈りの風景

不安だから焦って買う

いつでもどこでも買えるのが当たり前、安いのが当たり前という感覚に慣れているのが
私達、今の消費者です。
ですから「モノがない」という慣れていない事態が、人々を不安な気持ちにさせるのだと思います。
ましてそれが主食のコメなので、多くの人が慌てて米を手に入れて、不安を払拭させようとしています

しかし、とりあえず手に入れたとしても、いつまでこの米騒動が続くのだろうか?
このあとはどうなるのだろうか。ずっと値上がりしたままなのだろうか?ということが気になると思います。

日本人にとってお米は特別な農産物

消費者が今回米がなくなり不安になったのは、
私達日本人にとって主食であり、米は特別な農産物という心理も働いているかもしれません。
お米は日本の歴史、宗教にも密接な関わりを持つ特別なものだからです。
また、食文化の基礎であり、農業生産や農業経済の中の中核を担うものでもあります。

ですから普段あまりお米を食べなくても、
「日本人にとって米は大切なもの」という意識を多くの人が持っていて、
米が安定的に手に入らない事は、とても大変なことに感じてしまうのは当然の事かもしれません。
消費者の中には、「お米はそんなに沢山食べないけれど、無いと困る」という
心理の方が意外と多いのではないでしょうか。

不安な気持ちを払拭するには、目先の情報に振り回され過ぎない

いろいろな人がコメントをしていますが、コメの問題は複雑です。
長年の構造問題や利害関係があるからです。
この米騒動について、誰が悪いと批判したり、犯人捜しをしたり、誰かが儲けているとか書いてある記事もあります。
人によって言っている事が違いますし、誰の言葉を信じていいのかわからないし、
こういった情報は、不安な気持ちを払拭するには足らないと思います。

不安な気持ちを払拭させるためには、あちこちの細かい情報に振り回されるのではなく、
大局的な流れを知ることで、自分はこうしようと判断していただきたいのです。

需要>供給

今回の米の問題は、お米が不足したことが原因です。
なぜ不足してしまったかというと、
あちこちでいろいろな要因が言われていますが、
一番大きな要因は、昨年の天候や災害、高温障害
収量が減少、さらに形や色の良いコメ(一等米)が少なかったことがあります。

私自身、昨年秋の稲刈り時期に山形県の米の産地へ出張した折も、
現地の生産者や行政担当者から、今年の米は収量が少ないし、
高温障害がでてしまい一等米が少ない、大変だという話を聞いていました。

お米は秋に収穫されて貯蔵されます。
そして、翌年の新米が出る前に、だいたい昨年の米がはけるような仕組みになっています。
しかし、昨年の米の収穫量が少なかったので、
新米がでる前にショートしてしまったということです。

では、今回の騒動はたまたまでしょうか?

いえ、そうではないと思います。
なぜなら、昨年の夏も暑かったですが、今年の夏はもっと暑かったですし、
台風や大雨などの災害はどんどん甚大化していますね。米の産地も被害を受けています。

ということは、昨年よりも今年の方が米の供給状況が良くなるという要因は
ほとんどない
ということです。

需要<供給の時代がずっと続いてきた

では、お米はいつから足りなくなったんだろうと疑問を持つ人もいると思います。
そこで、ちょっと時代をさかのぼってみたいと思います。

もともと日本人の主食は米ですが、戦後の食の欧米化に伴い、パンなどを好む人達が増えて、
米の消費量はずっと減少し続けてきました。
米を作っても売れない時代になり、
米は需要<供給というアンバランスな状態になってしまいました。

農水省「米をめぐる関係資料」R4.7月

そのバランスをとるように、国は長年「減反政策」を行ってきました。
毎年国から毎年各市町村に、「今年はこれぐらいお米を作ってもいいですよ」というお達しがきます。
それに沿って、この地区ではこのぐらい作付けするという量を決めたり、お米を作れないところには、お米を作る代わりに大豆や蕎麦などの代用作物を作ったり、最近では飼料米にすれば、国が生産者に対してお金を支払うという政策をしてきました。(他にもいろいろな施策がありますが)

簡単に言ってしまえば、お米の生産量は国がコントロールしてきた訳です。

農水省「米をめぐる状況」R4.7月

生産者の努力

お米の需要が減少すれば、当然全体的に米価は下がります。
そうなれば水稲(米)生産者の収入は上がりませんので、
作っても儲からないという事態になりました。

そこで生産者や生産団体の中には、
より美味しいお米を開発して高く買ってもらおうとしたり、
農作業の効率化やAI活用を活用して労働力の軽減を図ったり、
JAを通さず、直接販売や別のルートで販売したり、
マーケティングやブランディングに力を入れたり、
コメを加工して米粉をして需要を拡大しようとしたり、、、

このように様々な努力をしてきた人も沢山います。
私は仕事柄、そういう生産者の方々とお付き合いをしてきました。
それでも、お米の需要の減少傾向は続いてきたのです。

米の輸出

米離れが進むと同時に、
我が国の人口動態は逆ピラミッド型で、超高齢化社会になってきました。
胃袋が小さくなれば、コメの消費量減少傾向は一層拍車がかかります。

そこで国は米の需要を国外に求め、
積極的に日本食の浸透や、米や米加工品の輸出を促してきました。
その結果、アジアをはじめ世界各地で日本食がブームとなり、近年日本の米の海外需要は伸びています
寿司は世界中でポピュラーな食べ物になりつつありますし、欧州でおにぎりがブームになったり、中国では日本の炊飯器で日本の米を食べる人も多いと聞きます。
ということは、今回の米不足は輸出にも大きな影響がでてくるでしょう。

農水省 「米の輸出をめぐる状況」 R6。9より

需要と供給のバランスの崩壊

お米は我が国の気候風土に合った主食です。
しかし、想像以上に急激な気候変動や、世界情勢の変化によって、
需要と供給のバランスが、一気に崩れてしまったのが今の事態と考えています。
もちろん、もっと細かい要因は沢山あると思いますが、これが一番根幹だと思います。

つまり、これまでと全く違った状況になってしまったということです。
余っていたはずなのに、足らなくなったわけです。

では、お米の生産をもっと増やせばいいということになります。
しかし、農業人口の減少もありますし、
国が急激に政策転換をするのは難しいことですし、
様々な背景があるので、そう簡単ではないだろうと推察します。

消費者向けの米がない

今回のお米騒動は、主にスーパーなど小売店に対しての供給が不足してしまったことが
要因になっているようです。

日本全体をみると内食(自分で調理して食べる人)が減少していて、
中食(総菜を買う)や外食が増えています。
ということは、米の全体の需要から見れば、家庭用米の需要はそんなに大きな割合ではありません。
ですから、騒動になっているのはほとんど消費者向けの米の話だと思います。

中食や外食産業では、年間契約をして米を確保するような仕組みがほとんどです。
(小さい店舗などは別ですが)

昨日、米の流通業者であり、食育でお世話になっている五つ星マイスターの牧野氏に話を聞きましたが、
スーパーなどのお米がないだけで、米屋にはありますよという話でした。

農水省「米をめぐる状況」R4.7月

気になるお米の値段

今出回っている新米の価格は、昨年の1.5倍だとか2倍だとか報道されています。
値上げは家計に厳しいですね。
そうでなくても他のものも値上がりしているのですから。

でも、お米だって他のものと同じなのです。
資材代や肥料代など、農産物の生産コストが急激に上がっているので、値上げはやむを得ないのです。
お米を作り続けるためには、他の食品や商品同様に価格転嫁は当然のことです。

米や野菜は安くて当たり前というイメージが染みついてしまっている節がありますが、
目の前の現実とこれまでのイメージが乖離してしまっていて、腑に落ちないのかもしれません。

さらに、今回は需要>供給となっているので、モノがなければ、値段は上がるわけです。
みんなが欲しがるけれど物がないのなら、値段が上がるのは当然のことです。

この2つ事が同時に起きてしまっているので、いきなりかなりの値上げになってしまっています。

この後、お米の主産地である新潟や東北などのお米が出てくれば、
需要と供給のバランスは少し変化するはずです。
そうなれば、価格も少し落ち着くのではないかと思います。
(台風などの被害が、このあとないことを祈っています。)

これからの調達方法を考えてみる

今後もお米に限らず、これだけ気候変動や災害が多発すれば、
他の農畜産物も不足する事態が起こり得ると考えておいたほうがよいでしょう。
今年は梅が不作で、梅がなくて困ったという話もありましたね。

では、また何かが不足してしまった時に、
今回のように慌てることがないようにするためにはどうしたらいいでしょうか。
これを機に、どこで買うか、誰から買うか、食料の調達方法を考え直してみるのも一つだと思います。

お米の場合の話をします。
お米はスーパー以外で買う選択肢があります。

米販売店さんでは、話を聞きながらいろいろな品種や産地のお米選べます。
近所になかったら、隣町でもちょっとどこかの町に行ったときでも、お米やさんに立ち寄ってみて下さい。
重くて持って帰れなければ、送ってもらえばよいのです。
(私の実家は都内ですが、年老いてしまっているのでスーパーで購入して持ち帰るのは厳しく、気に入ったお米を千葉県のお米やさんから少量送ってもらっています。)

道の駅や直売所でも買う事ができます。そこで買ったお米が気に入ったら、直接生産者にコンタクトして消費者に直売をしているかどうか聞いてみるのも一つの方法です。
ただ、生産者はそれぞれの商売のやり方や考え方を持っているので、直接販売はしないという人もいます。ですから、直販してくれなかったと怒らないで下さい。

インターネット経由で生産者から直接購入する事もできます。
同じ品種のお米でも出店者によって、かなり価格のバラつきがあるような気がします。
何がどう違うのかは、ネット上の文字ではわからない部分もあります。
まずは買ってみて、お米は粒の大きさや、粒の揃っているか、食味は良いかなど、
ご自分で実際にモノをみてチェックしてみて下さい。

年間契約できる生産団体や生産者もあります。
その中には、田植えや稲刈りなどの農業体験などもできるところもあります。
一定の量を定期的に食べるのであれば、生産者から年間契約で購入するのがお勧めです。

生活共同組合(生協)に入って購入するのも一つです。
生協の場合は、生産地と年間契約しています。
宅配サービスなら玄関前まで運んでもらえるのは有難いですね。

基本的に、流通経路が複雑であればあるほど、コストは上乗せされるので価格は高くなります
いいお米を安定的に購入したいと思ったら、是非、スーパー以外の選択肢も考えてみて下さい。

もちろん、お米以外の農産物もいろいろな入手方法があります。

作る人と食べる人が繋がることの大切さ

今回の米騒動は、新米が出回るまであともうちょっとという時に起こりました。
一番米の在庫が少なくなる時期です。
明日の米もないのなら仕方ないですが、焦って買ってしまうのは、不安だからだけでなく、
そもそも新米がいつ獲れるのか、ということを知らない消費者の方も多いことも一因だったようです。

それだけ、消費者と生産の現場がかけ離れてしまったということでしょう。

食の世界は、簡単さや簡便さが重要視されているので、どんどん食品の加工度が高くなっています。
加工度が高くなればなるほど、原材料の形や、どこで誰がいつ作られているかは
わかりにくくなってしまいます。


ですから、魚が切り身で泳いでいるとか、トマトが土から生えているとか、
納豆が野菜だとか思ってしまうのです。(これはほんとの話でして、、、子供だけじゃないんです、、、)

原料や原料が育つ環境を見たことも触れたこともなければ、
自己本位な解釈をしてしまったり、
現場とかけ離れた話が独り歩きしてしまったりします。

私はそれをどうにかしたいと思って、これまでずっと食や農の体験型ワークショップなどで
食と農を繋ぐ活動をしてきたわけです。

畑のワークショップ
農作業体験とその場で作る料理教室
べジLIFE!香取さんの畑で
収穫した野菜をその場で皆で調理して食べる

消費者生産者という関係性から、互助の関係性の時代に

いつでもどこでもものが潤沢に購入できる時代は終わってしまいました
これから、食料危機は深刻度を増すと言われています。
では、私達はどうしたらいいのでしょうか。

私からの提案は、自分で食料を作れない人は、作れる人と良い関係性を構築することです。

その時に、ただ安いとか高いとか、美味しいとか美味しくないとか消費者としての権利をいうのではなく、生産者側の状況や現実も理解すれば、関係性は構築できます。
もちろん生産者も、自分の想いや考えを押し付けるのではなく、消費者のニーズや気持ちを
知ってもらうことも大切です。

これからは、農業を持続可能にするためにも、お互いに支え合う関係性を築いていただきたいのです。
もちろん、生産者もいろいろな考えの人がいますので、自分にあった人と繋がるのが一番です。

生産者と繋がる制度

例えば、オーナー制度などで、生産者と繋がることもできます。
ワインや果物などがありますが、お米でもこの制度をやっているところがあります。

また、地域支援型農業CSA(Community Suppoorted Agriculture) といって、
収穫体験だけでなく、もっと踏み込んだ形で、 地域の生産者や消費者、実需者等が立場を超えて一緒に働き営農する形です。
地域ぐるみで、生産者と消費者が繋がり、消費者が生産現場で農作業等を年間を通じて、長期的に手伝い、その対価として農産物を提供してもらうという仕組みsw、日本でも少しずつ出てきています。

生産者と消費者という関係性だけでなく、
お互いの事を知って支え合う、信頼関係をいかに構築していくかが、
これからの食料難の時代に立ち向かっていく術だと思います。

コーンとセロリの炊き込みご飯(nitta)

最後に。
これは、そろそろ終わるとうもろこしとセロリ、鶏肉入れた塩味ベースの炊き込みご飯です。
いつもよりも具材をちょっと多めにすることで、お米を減らすことができます。
また、野菜などを多く入れることで、栄養バランスをよくすることにもなります。

この記事が、皆さんが、これから食とどう向き合っていくか、
少しでもお役に立てるならば幸いです。