5月下旬に8年ぶりぐらいにミラノを訪問しました。今回は輸出ビジネスの打合せが主な目的でしたが、
街中でオーガニック食品や他のスーパー等を見て回りました。
現在、私はオーガニックビレッジ事業などオーガニックへの理解と推進支援に関与しています。ですから、日本よりも有機食品が浸透していると言われている欧州の事情は気になります。
そこで、イタリアといってもミラノのみですが、実際の店舗を回った感想や気づいた点などを書いてみようと思います。
ヨーロッパのオーガニック
欧州は日本よりもオーガニックが盛んという話を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
確かに盛んです。
上記の欧州委員会のOrganic Farming Report(2012-2020)によれば、欧州でオーガニックが広がっていることがわかります。
オーガニック製品の小売取り扱い量は5年間で2倍に
毎年有機エリアが5,7%ずつ増加
所得の高い有機農業者数は慣行農業者よりも34%多い
有機農業の耕作面積は欧州全体の9.1%
CAP(欧州の共通農業政策)でもオーガニック農業は重要視
有機豚や食用鶏はそれぞれ年9%~11%増加している
欧州の人達の61%が有機農産物のロゴを認知している
さらに、EUの有機農業の施策は、2020年5月の「Farm to Fork strategy」という戦略によって、環境保全、生物多様性、食品の安全性をこれまで以上に目指すために、
2030年までに有機農業の耕地面積割合を25%にする目標も掲げています。
(2024年現在で約10%になっている)
このような数字を見ると、我が国よりも有機農業が進んでいることは明白ですが、その理由は一つではないと思います。
例えば、日本と違い気候風土が有機栽培に適している、環境保全に対する意識が高い、有機農畜産物の生産地と消費地が地理的にも近い、多様な商流、消費者の食事に対する意識の変化を促すための取組みがなされているなどが挙げられると思います。
欧州の国別有機食品購入額
上記の表は、欧州の有機食品の年間購入額のデータです。この表を見ると、
欧州の国の中でも、ドイツとフランスが有機食品に対して特に意識が高いことが
見て取れます。私が今回訪問したイタリアは3位となっています。
イタリアのオーガニックスーパー
今回私が行ったオーガニックスーパーは NaturaSi (ナトゥーラシィ)という
イタリア最大級のオーガニック専門スーパーマーケットチェーンで、
食料品だけでなく日用品も扱っている店です。
全国展開していて、ミラノ市内にも12店舗あります。またネットでも販売しています。
下のグラフを見ても分かる通り、NaturaSiは約10年で4倍近くの店舗数になっています。
それだけイタリアで消費者がオーガニック製品を認知して購買するようになったという事になります。
下の図を見ると、このスーパーは大都市だけでなく、中都市にも広がっていることがわかります。(〇中の数字は店舗数) 浸透しているという感じがしますね。
私がお店に行ったのは平日の15時頃でしたので、お客さんは数人しかいませんでした。
この店舗では、入口の近くにヘアケアやボディケア製品、フレグランスなどの日用品が並び、その奥に食料品が陳列されていました。
野菜類は基本的に量り売りです。(日本もそうなって欲しい、、、)
加工食品で目立ったのはNaturaSiのPB(プライベートブランド)商品です。写真にはないのですが、かなりのアイテムでPB商品がありました。(これだけ店舗数があれば納得です。)
欧州各地の商品も並んでいましたし、日本の食品も多く並んでいました。
特にマクロビオティックという陳列棚には日本の調味料がずらりと並んでいました。
よく見ると、日本の食品でも見たことがないパッケージやメーカー名も多くありました。
例えば、ドイツにあるオーガニック系の企業が日本など各国から輸入して自社ブランドとしてパッケージングして販売しているからです。
グルテンフリーとオーガニック
また、ちょっと驚いたのは、通常のスーパーならばズラリと並んでいるパスタ類がほぼ見当たらないということです。欧州はグルテンフリーが盛んと聞きます。実際に店舗を見てみると、小麦の代用品が多いのは確かです。
オーガニックフードを購入する人達はグルテンフリーへの意識も高いという相関関係があるようです。(実際に現地のシェフに聞いても、ある程度の層の人達は、毎日パスタを食べないと言われました。)
いろいろな雑穀や豆類も販売されています。なかにはAZUKIもありました。
オーガニック乳製品
このほかでは、写真を撮っていないのですが、オーガニック乳製品がどこに行っても売っているということです。(牛乳、バター、ヨーグルトなど)街中にあるまいばすけっとみたいな小さなスーパーでも売っています。だいたい1割。1.5割高位です。)
先ほどの欧州委員会の発表にあったように、オーガニックの畜産品も増えている背景があるからでしょう。
ここでは肉や魚、パンといった食品ももちろん販売していて、そこに来たらほぼ全ての買い物が網羅できる店舗です。
エコな容器と包材
他の店舗で見ても感じたことですが、容器はリユースできる瓶製品がとても多いのが印象的です。それ以外では紙パッケージが多く、シンプルな形が多いのを感じました。
包材にプラスティック製品もとても少ないです。(EUでは食品に触れる包材や容器にもプラスティックなどをなるべく使わないようにするための規制があるためです。)
日本では利便性重視でここは大きな違いです。
製造者からエンドユーザーまで、環境配慮やエコの視点を浸透させるためには、このような規定を作ることも重要な要素だと感じました。
比較として、住宅街の普通のスーパー(カルフール)にも行きましたが、日本のスーパー同様に生鮮品もカット済みパックなど利便性を考慮したものが売られていたり、パスタ類もずらっと並んでいました。パスタは本当に安いです。
5日間毎日ミラノ市内をあちこち歩き回っていましたが、ごくごく普通の人はパスタやピッツア、フォカッチャのようなものを毎日食べている感じがします。
プラントベース
プラントベース食はどうかというと、あまり見かけなかったというのが私の印象です。ドイツなどではソーセージもプラントベースであると聞きますが、このスーパーでは、普通のハムやソーセージしかありませんでした。
唯一このスーパーでも、まいばすけっとのようなミニスーパーでも売っていたのが、ハンバーガー用パテです。
オーガニックの層が厚い
今回ミラノを訪問して感じたのは、国民全体がオーガニックに興味があって購買してるわけではないということです。ただ、一定の人達がオーガニックやグルテンフリーに対して関心が高く、その層が日本よりもかなり厚いと解釈するのが正しいのではないかと感じました。
欧州は日本と違ってもともと階級社会です。移民を沢山受け入れています。
(地下鉄に乗ると皆肌や髪の色が違っていて、ここはニューヨークなのかミラノなのかよくわかりません。)いろいろなバックグランドと階層の人達が混在しているイメージです。
地方にいくと少し異なるのかもしれませんが、先ほどの店舗が各地に展開していることを考えると、
所得、考え方、バックグランドなどで国全体的に層がはっきりしているという見方もできると思います。
そう考えると、かなり欧州と日本では背景が異なるので、欧州と同じ様にオーガがニックが浸透するかと言えば、そうではないと思います。
農畜産者が生産を拡大するための支援や施策があっても、消費者の意識が変わったり、変な誤解が払しょくできるように手立てを考えないと、オーガニックフードが本当に浸透していくのは厳しい気がします。
(これは国内で仕事をしていてもいつも感じていることです。)
欧州では、持続可能な食料システムの構築のために、一般消費者向けや食品産業向けに食に対する意識を変化させるために、厚労省的な公的な機関が農水省的な立場の公的機関とタッグを組んでいるようです。
今回のミラノ訪問では、イタリア人の食に対する保守的な側面も感じた一方で、食への意識を変えていく力があることも感じました。
欧州といってもフランスやドイツのオーガニック事情とはまた異なると思います。近いうちに別の国にも訪問してリサーチしてみたいと思っています。