今日は、土用丑の日ですね。
鰻を食べる方も多いと思いますが、その時欠かせないのが山椒粉です。
あの独特な香りが食欲をそそりますよね。

山椒はミカン科の低木

山椒は、ミカン科サンショウ属の落葉樹です。別名ハジカミとも呼ばれていて、山の雑木林などに自生しています。山椒の木には雌雄の株があり、雌の株のみが実をつけます。
庭に山椒の樹があったな~という方も結構いらっしゃるのではないでしょうか。山椒は私達にとって身近な存在の樹なんですね。

(下の写真は、飛騨高原山椒の畑)

日本の食と縁が深い存在

山椒は日本および東アジア原産の植物です。

日本の山椒の葉は「木の芽」とも呼ばれていて、和食では、若芽を香りづけに使われたり、すり潰して山椒味噌にしたりします。
春の終わりには、雌株の蕾に黄色い花を咲かせます。それは「花山椒」と呼ばれ、お吸い物の飾りや、最近では花山椒鍋として楽しむところも増えています。
青い若い実は実山椒として青果店で初夏に販売されて、佃煮やちりめん山椒などに使われたり、醤油漬けにしたりします。
夏から秋にかけてもう少し大きくさせた実を収穫して、乾燥させて挽いたものが、山椒粉で、鰻や焼き鳥等に使われています。
七味唐辛子の中にも山椒粉がブレンドされて入っています。
また、木の部分はちょっといぼいぼしているのですが、この部分はすりこぎとして使われています。
また、山椒は捨てるところがない植物ともいわれていて、日本の食とは縁が深いのです。

日本の山椒には、朝倉山椒、飛騨高原山椒、ぶどう山椒などの品種がいくつかあります。

熟成熊肉と花山椒の鍋 (余呉 徳山鮓にて)

和食にかかせないスパイス

山椒は日本を代表する香辛料(スパイス)の一つで、英語ですと「Japanese Pepper」と呼ばれています。
香辛料には、辛みをつける、香りをつける、色をつける役割がありますが、山椒の場合は、辛みと香りづけのために用いられています。特にあの爽やかな独特な香りとしびれる辛さが魅力的なスパイスです。

あの独特な香りは、柑橘系の香りであるシトロネラールという成分です。柑橘系の香りがする
山椒を入れることで、脂分が多い料理や、濃厚な味付けの料理がさっぱりと食べやすくなります。

山椒の辛み成分は、いわゆる「ホット系」と呼ばれるタイプの辛みで、サンショオールという辛み成分が主に入っています。ホット系の辛味は、食べてからちょっと経ってから、辛みを感じてそれが持続するのが特徴です。山椒は、口に入れて少し経って辛さが襲ってきますよね。
また、ホット系の山椒は、シャープ系の辛味(わさびやマスタードなど)と比べて、加熱にも強いのが特徴です。

花椒との違い

花椒(ホワジャオ)は、中国原産の山椒です。中国では薬用植物として古来から用いられてきました。
花椒は四川料理などでよく用いられています。四川料理では料理名によく「麻」(マー)「辣」(ラー)とつくものがあります。これは四川料理を代表する味付けのことで、「麻」は山椒のしびれるような辛さ、「辣」は、唐辛子のひりつくような辛さを意味していて、それを一緒に合わせた味付けがされているのが、麻婆豆腐や担々麺などです。
花椒にも赤いものや青いものなどタイプがあるようですが、日本の山椒と比較すると、しびれ感が強く、香りも鮮烈です。
また、台湾には馬告(マーガオ)という独特な香りがする山椒があったり、ネパールに自生するティムルという山椒があったりと、アジアの各地には、それぞれ特徴のある山椒が存在します。

山椒の収穫量が減少している

さて、これからが今日の本題なのですが、実は近年山椒の収穫量が減少しているのです。最近山椒の生産者や加工業者さんとお会いする機会が多いのですが、「山椒が本当にない!!」と皆さん困っています。
確か、10年程前は日本の山椒は需要が伸び悩んでいたはずなのですが、今は足りなくなって供給不足になっているのです。

山椒の収穫量が一番多いのは和歌山県で全体の生産量の半分以上を占めていますが、その和歌山でも収穫量が減少しているとのことです。

もともと山椒の樹は寿命が短い樹木であり、だいたい7~8年で枯れていくと言われています。しかし寿命でもないのに、近年、実がならない、立ち枯れしてしまうことがあるそうです。

その原因はまだはっきりと解明されていませんが、これまで普通にできていた実がならない、実のつき方が悪い、木が枯れてしまうなどの要因は「地球温暖化」の影響ではないかと推測する人もいます。

すでに温暖化の影響は、自然災害などだけではなく、生態系などにも影響を及ぼし、農業にも大きな影響が生じています。
先ほど、山椒はミカン科だとお話しをしましたが、ミカン科の植物には、アゲハの仲間が卵を産んで幼虫であるイモムシがつくと、あっという間に新芽や葉っぱをむしゃむしゃ食べられてしまいます。また、昆虫寄生菌が植物に就くことで病気になったりする事もあるので、農業にとってアゲハは害虫です。
温暖化によって、アゲハの生息域が北上したり、ふ化しやすくなっている、寒くならない時期が長くなれば、長期間生息するなどの要因によって、アゲハ類が増えて、山椒の樹にも影響が生まれているという説もあります。もちろん、要因はそれだけではなく他にもあると推測されます。

このままだと希少なものになる?


最近ちょっと驚いたのは、これだけ日本人の食にとって重要な山椒なのに、山椒の栽培に関する研究がほとんどなされていないという事です。
実際に論文を検索してみたのですが、香り成分に関するものはあっても、
農学分野での研究がほぼないのです。

ということは、今までは栽培に関してほとんど課題はなかったということです。しかし、これからは状況が変化しているのでそうはいかないと思っています。
収穫量が減少しないための栽培方法の工夫や、温暖化に適応するための対策が必要になってきそうです。さらに、温暖化によっていろいろな作物の産地が北上しているように、もしかしたら山椒の適地ももっと北へと上へと変化していかなければならないのかもしれません。

(下の写真は飛騨高原山椒の畑にて)

海外から注目されている山椒

国内では、山椒が採れない!足りないという状況なのですが、海外では、
Japanese Pepperはだいぶ前から注目されています。フランスではシェフたちが山椒を料理やスイーツに使っています。肉にも合いますし、チョコレートや乳製品にもよく合うので、和食以外にも汎用性があるのです。

最近では米国のステーキ好きの間で山椒が流行っているという話も飛び込んできています。いわゆる普通のPepper(コショウ)とは違って、柑橘系の独特な香りを好む人達もじわじわと増えているようです。

下の写真は、私が若く青い山椒の実の茎を取ったところです。

山椒はますます高級品に

山椒は高級な食品でもあり高級な香辛料でもあります。なぜ価格が高いのかというと、まず実を収穫するのは基本的に手摘みですので、手間がかかります。さらにフレッシュな実山椒をそのまま青果物として出す以外は、枝を採ったり、あるいは中の核の部分を取り出すなどの作業があります。

粉にする場合は、乾燥させて核を取り除いた部分を粉砕するので、もともとの量の半分以下になってしまうので、とても歩留まりが悪いのです。
加えて、収穫量が減少すれば価格が高騰してしまいます。
当たり前のように、鰻や焼き鳥に沢山振りかけられた山椒粉も、高級すぎて、そんな風に出来なくなる懸念もあるのです。

山椒という日本の食文化を支える食品が絶えないようにするためには、産地での新たな取り組みやそれを支える仕組み作りが急務であると感じています。
またこの記事を通して、これまで当たり前のように普通に使っていた食品が、なかなか手に入らないものになっていく可能性が高いということを、理解していただけたらと思います。