山形県東置賜郡川西町で昔から作られてきた「紅大豆」は、やまがた伝統野菜に指定されている特産品です。
パッとみると小豆の様に見えますが、皮が赤い大豆です。しかし近年は栽培する人が減少して、生産量も減少しています。

 地元では昔から煮豆として食べられたり、学校給食では豆ご飯やコロッケなどで提供されてきました。ですから町民の方々の認知度は高いのですが、町外にはあまり認知されていません。
 紅大豆を今後も作り続けて次世代に繋いで行くためには、紅大豆をもっと広く認知してもらい、需要を増やしていく必要があります。
 
 そこで、約1年間をかけて川西町と山形県立米沢栄養大学との紅大豆の商品開発のコラボプロジェクトを行い、弊社はが全体のプロデュースを行いました。



もぐべに

 今回開発した商品は「もぐべに」といいます。
紅大豆を使った煎り豆菓子で、10g入りの個包装が10袋が入っています。
味は3種類で、素煎り、きなこ味、キャラメル味です。
素煎りは塩味ですが、きなこ、キャラメルは甘味です。
どれも豆の味がわかるようにやさしい味付けになっています。


 

米沢栄養大学とのコラボ

 今回の商品開発のプロジェクトは、米沢栄養大学大学生の皆さんとのコラボですので、大学生の皆さんの感性や考えを商品開発に組み入れること、紅大豆の特性を活かすこと、マーケティングをしっかり考えることの三つを重視して取り組みました。

 プロジェクトに参加してくれた学生さん達は10人。履修科目ではなく自らの意志で参加してくれた学生さん達です。栄養大学ではコラボメニュー開発は行ったことがある様でしたが、商品開発のプロジェクトは初めてだそうです。

 学生が関わったコラボ商品の開発には、いろいろなやり方があると思います。
今回は、展示会を見て回ったり、学生の皆さんが紅大豆を調理実験をしたり、商品開発の基礎知識を学んだり、ワークショップ形式でアイディアを出してもらったり、実際に店頭でプロモーションをしてもらったので、かなり内容の濃いものになりました。

展示会を見学

 プロジェクトをスタートする前に、都内で開催されたスーパーマーケットトレードショーに行き、学生の皆さんにはテーマを提供して様々な商品を見て回ってもらいました。学生の皆さんにとっても、食品ビジネスの片鱗を垣間見た機会となったと思います。 

紅大豆ってどんな豆?

 商品開発をスタートさせるにあたって、まずは紅大豆を知ってもらうために川西町の紅大豆研究会からの歴史や背景などの説明を受けました。
 次に豆の取り扱い方の基本を栄養大学の斎藤先生が指導して下さいました。
今の若い世代の人達に限らず、乾燥した豆を調理して食べる人はとても少なくなっています。店頭に並んでいても、どう扱えばいいのかわからないので、まずは取り扱い方を知るところから始めて下さいました。

赤い豆はアントシアニンを含んでいる?

 今回のプロジェクトのために、栄養成分も分析しました。これまで、皮が赤い豆(中は普通の大豆の色)なのでアントシアニンが多く含まれていると言われていました。しかしエビデンスがはっきりとわからなかったので、調べて観ることにしました。その結果、実はアントシアニンはあまり含まれていないという事が判明しました。
 よく栄養成分を謳い文句にしている商品が多いですが、本当にそうなのか裏を取ること、エビデンスも大切だと改めて感じました。

調理特性を調べる

 私が商品開発をする際に、最も重要視している事の一つが食材の調理特性です。食品は適材適所で使われることで、その良さが引き出されるからです。どのような調理加工が適しているかを考えず、マーケットイン思考で考えてしまうと、この点を見落としてしまいがちです。
 今回のプロジェクトでは、栄養大学の皆さんに、紅大豆の調理特性を調理方法や浸漬時間などを変えて調べていただき、官能評価を行ってもらいました。
 調理特性をまとめた結果は、今後紅大豆の商品開発をする際にも参考になります。委託加工先にも共有して、開発の参考にしてもらいました。

商品開発ワークショップ

 紅大豆の特徴を掴んだ後、どんな商品を作るかを考えるワークショップを数回行いました。既存の紅大豆商品を試食したり、既存のマーケットについても考えました。
 商品開発は、「いつどこで誰にどのように売るか」という基本的な商品コンセプトのアウトラインが出来ないと具体化していかないので、学生の皆さんと話し合っていきました。

 商品コンセプトを決めていく場合は、今回の学生に限らず、クライアントさんと何回も回を重ねていろいろな方向から話合いを重ねて考えていきます。商品コンセプトは土台作りなので、とても重要だからです。

商品コンセプト

 メインターゲットは、「普段あまり豆を食べることがないZ世代の若者」としたので、若者にも好まれるような商品にすることになりました。
 大豆は健康によいので、お菓子としてもっと気軽に食べて欲しいということで、
 「小腹が空いたときにちょっと食べられる商品」「豆の味がわかるような味付けの商品」としました。
 販売先は、「町外で売れるような商品」ということで、米沢の道の駅や、東京のアンテナショップで売れるようなもので、川西町のお土産にもなる商品にすることにしました。また米沢市内のコンビニなどでも売れたらいいねという話も出ました。

アイディアと現実のズレ

 商品コンセプトの概要ができたら、次は実際に何を作るかです。学生さん達からはいろいろな商品アイディアがでました。
 でも、実際に加工製造するとなると、手間やコスト、ロットを考えなければなりません。そこは、学生の皆さんには想像がつかない部分です。アイディアと現実にはズレが必ず生じます。
 例えば、紅大豆の豆乳アイスを作ろうとしたら、まず紅大豆を豆乳にするところが必要です。次に、アイスクリームに加工するところも必要です。この二つを一緒にやっているところはあまりないので、加工を2か所でやってもらわなければなりません。そうなると手間もコストも高くなります。
 商品開発で何を作るかを考える場合、製造工程がどのくらいかかるのかを把握しておくことはとても重要なのです。
 ロットの問題も大きいです。加工先が許容できるロット数が必ずあります。
実際に紅大豆を使ったプロテインバーが候補にあがり委託製造先も見つけたのですが、製造ロットが1万個からとあまりにも大きすぎて、今回のプロジェクトの規模には適しないので諦めました。

委託加工先探しはお見合い

 今回のプロジェクトで一番苦労したのがOEM(委託加工)先を見つけることでした。そもそも原料の紅大豆の量があまり多くないので、小ロットで開発できるところ、Z世代が好むような商品化をしてくれるところを探すのが大変でした。県関係者や大学関係者の方々にも協力していただきながら、あらゆる伝手を使ったり、直接電話したりしました。
 私は委託加工先を探すことは、お見合いの様なものだと思っています。いろいろな条件が折り合い、かつ対話できないとよい商品作りができないからです。ここで頓挫する商品開発も結構あります。

 「うちはこれしかやらないよ!」という加工先もありますし、加工製造機械の性能や技術もバラバラです。相手を見極めたり、何を優先させるかを見極めたり、すり合わせをするのがプロデューサーの仕事だと思います。

地域内で生産から加工まで行うことは現実的に難しい

 地域産品の開発の場合、できれば地域内や県内で加工製造出来れば、コストもエネルギーも削減できて良いと思うのですが、なかなかそう簡単にはないのが現状です。
 地方に行って地域産品を購入するとき、製造先が他県だとがっかりするという話を聴きますが、現実的には仕方ないことなのです。
 何を作るかにもよりますが、作りたいものを作ってくれるところが近場にあるとは限らないですし、その可能性の方が低いからです。
 今回はいろいろ探した結果、「食養の杜とやま」さんに委託しました。実際に加工場も見せていただき、お話しも伺って決めました。

試作を重ねて

 何度も試作を重ねてもらいましたが、なかなか思うように豆を煎ることが難しかったようです。紅大豆は普通の豆よりも皮が厚く渋みが若干あるからです。
 味付けもかなり何回も工夫をしていただきました。特にZ世代が好む味付けとして、学生の皆さんからの意見で「キャラメル味」を作る事になったのですが、最後まで大変でした。
 なるべく人工的な原料は使わず作りたい考え方が、こちらにも食養の杜とやまさんにもありました。
しかし、原料の調達の問題やキャラメル味を出すために何を使うかで苦労をしました。

商品名は「もぐべに」

 商品名は学生の皆さんに応募してもらい、その中から決めたものです。
紅大豆に触れあっているうちに、愛着が湧いてきたことを感じさせるような素敵な名前だと感じました。

 デザイン&パッケージ

 パッケージは、10g入りの個包装が10個は入れるものを選定しました。
個包装の素材は、ちょっと高級感がでるように透明ではなくフロスト(半透明)にしました。
 
 商品シールは、パッケージデザイナーの原田みのりさんに依頼しました。
デザイナーは色々なジャンルの方がいらっしゃいます。しかしパッケージの商品デザインを主に専門にしている人はなかなかいません。
 弊社がデザインのディレクションをしたのですが、なるべくお金をかけずに見栄えよく、後で商品をリニューアルする際のことも考えてデザインを依頼したところ、色々と工夫をしてくださいました。
 原田さんは有名なチョコレートメーカーのパッケージをはじめ、地域産品などのデザインも多数手掛けている方です。

今回はフライヤーもデザインしてもらいました。
しかしフライヤーなどに使う袋詰めの商品写真は難しく、素人の私やデザイナーさんでは上手く撮れません。これはプロでないとなかなかできないのです。
そこで、カメラマンの谷内俊文氏とスタイリストの笹原光さんに依頼しました。

 学生の皆さんにA案、B案の二つを提示して選んでもらいました。
また、プロモーション用に手描きのPOPも作ってもらいました。自分でPOPを作ると、何が訴求ポイントなのか整理できますので、商品の説明がしやすくなります。

商品のお披露目プロモーション

 商品は2月初めに完成して、米沢道の駅でプロモーションを行いました。雪でとても寒い日でしたが、
県内のプレス関係者の方々が多く取材に来て、学生達もインタビューを受けていました。

 また3月16日は東京銀座にある山形県のアンテナショップでもプロモーションを行いました。2か所で販売してみて、お客様の傾向や反応などを知ることができました。山形県内と東京では、お客様の好みが違ったり、反応が異なりました。
 この他にもアンケートを実施して、今後に繋がる情報の収集を行いました。

今後について

 弊社は長く愛され続ける商品作りをモットーとしています。ですから作って終わりという商品はなるべく作りたくのです。
 しかし、行政や商工会議所などの団体が絡んで作る地域産品の場合、販売元がしっかりしているということが持続可能性の鍵となります。作ったという実績だけ残っても、あまり意味がないと思うのです。今後、販売体制をきちんと整備することが大切です。

 また、紅大豆の場合は生産量が限られているので、限定商品となってしまいます。この希少性をどう強みにしていくか、どこにアプローチして販売していくのかが今後の課題だと思います。また、数量限定の商品なので、ロット数が少ないので、価格が高めになってしまうのでそこをどうクリアにしていくかも課題です。また原料の紅大豆の確保も鍵になります。
 
 今回のプロジェクトはオーガニックビレッジ事業の一環として、有機紅大豆での商品開発を予定していましたが、天候の影響で有機紅大豆が確保できなくなった等の理由で、慣行栽培の紅大豆で開発を行いました。今後は、有機紅大豆を使うことで、新しい顧客層にも訴求できるのではないかと思います。

参加した学生の皆さんの感想コメント


・良いアイディアがでて売れそうな商品でも、保存方法や加工の難易度などを考えると
 難しいなどが知ることができ、とても勉強になった。

・紅大豆を活かした商品を考えるのが難しかった。一年間の活動を通して、自分の意見を
 行ったり、人に説明する力をつけることができたと思う。
 実際に販売してみて、商品を手に取ってもらえてうれしかった。

・本格的な商品開発に携わることができて良い経験になりました。開発の難しさと
 完成したときの達成感から、様々な食品の開発に挑戦してみたいと思いました。
 プロジェクトに関わって下さったすべての皆さん、もぐべにを手に取ってくださった皆さんに
 感謝の気持ちでいっぱいです。

・商品開発は本当にいろいろな事を考えなくてはできないことで、一つの商品にも自分が
 思っていた何倍も多くの人が関わっていることがわかりました。
 商品にはターゲットやコンセプトがいかに大事かということを学びました。

・商品開発に取り組み始めた頃は1年にわたる開発は長い道のりだと思っていたが、
 いざ終わってみればあっという間で、自分自身も様々な経験ができ、参加してよかった。
 一人で開発するのではなく、皆で意見を出し合いながら進めていくことで、
 また違った視点や意見があり、楽しく吸うsメルことが出来たと感じている。

・一から商品開発を行うという貴重な経験をさせていただき有難うございました。
 紅大豆という名前を期待ことがないという状態から実験や話し合いを繰り返し、
 このように商品という形にできたことが、すごく嬉しかったです。
 このプロジェクトを通して、多くの事を学ぶことができたので、今後に活かして
 いきたいと思います。
・商品開発の大変さを経験することができた。
 スーパーマーケットトレードショーに参加して、普段は目にすることのないような商品を
 知ることができいい経験になった。
 若い世代を対象にした商品開発は見栄え重視になりがちであり、
 商品化は難しいと思った。

・なかなか考えていることをすべて商品に繋げることは出来ませんでしたが、
 1年間を通して貴重な経験をさせていただき、感謝の気持ちでいっぱいです。
 最初は不安でいっぱいでしtがが、とても良い商品ができてよかったです。

・商品開発に携わるという貴重な経験をさせていただき有難うございました。
 皆で話し合いながら川西町の方や新田先生に沢山のことを学ばせていただくことが
 でき、とてもうれしかったです。商品開発に興味があったので実際参加して、
 どのよウニ商品が作られるのか知ることができて良かったです。

・高校生の頃、スーパーに「商業高校×企業」の商品が売られていて憧れていたので、
 商品開発ができてとても嬉しかったです。

商品開発はスムーズにいかないのが当たり前

 商品開発はスムーズにいかないのが当たり前で、形にして世に出すのは簡単ではありません。
特に行政関連事業は年度内で仕上げなければならない事が多く、他にも制約がいろいろあるので、最初の企画立案、工程管理、関係者同士のコミュニケーションがポイントになります。
 一番やりにくいパターンが、行政関係者などの商品開発の専門家でない人が独自に企画立案をした開発事案です。開発のポイントがわからないまま計画を策定しても、あまり上手くいきません。
 (今回は申請を出す前に簡単に打ち合わせをしており、前年度までオーガニックビレッジ事業で一緒に仕事をしてきた方々だったのでとてもやりやすかったです。)
 また、今回のように開発の関与者が多い場合は、プロデューサー的な役割はとても重要だと改めて感じました。

最後に

 今回のプロジェクトでは、最初から最後まで一緒に開発に携わってくださった山形県立米沢栄養大学の齋藤先生と担当職員の皆さん、OEM先を探すのをサポートして下さった山形県庁関係者、最後までベストを尽くして下さった食養の杜とやまさん、リクエストに沢山答えて下さったデザイナーの原田さん、そして川西町役場のスタッフの皆さんに本当にお世話になりました。
 弊社のプロデュースは2025年3月で終了いたしましたが、今後もこの商品を見守っていきたいと思っております。
 どんなに大変でも、出来上がった商品を手に取って下さり、美味しいと喜んで下さるお客様の顔を見るとやって良かったなと思えます。
 また今回は、学生の皆さんが今回のプロジェクトに関わって良かったと感じて下さったこともとても嬉しいです。社会に出た時に、何かの糧になったり強みになればいいなと思っています。
 これまで大学で講義をしてきた私にとって、1年間で成長した学生さんの姿がまぶしいですし、新たな講義を受け持った気持ちになれた1年間でした。このような機会があったら、またぜひプロデュースしてみたいと思います。