さる2025年1月29日に島根県邑南町において、「持続可能なおおなんの農のこれからを考える会」で
講演&ワークショップを行いました。
邑南町は、中国山地の町で、以前ジビエの仕事で行ったことがある美郷町の隣りです。
町内にはスキー場があるくらいで、冬は寒いところです。
私が行った時も、雪がちらついていて、朝は氷柱が屋根に落ちる音で目が覚めました。
邑南町は積極的にIターンを受け入れていますが、
他の中山間地域と同様に、人口減少が進み、農業生産者も減少しているところです。

オーガニックビレッジ宣言をしても、推進の仕方がわからない
邑南町は島根県で唯一「オーガニックビレッジ」宣言をしている町です。
以前より町として「環境にやさしい農業」に取り組んできている経緯があり、
オーガニックビレッジ事業をスタートさせて3年目とのことですが、
他の市町村と同じように、ビレッジ宣言をしたものの、この事業をどう進めていけばいいのか悩んでいて、
現状を打開したいということで、今回オファーをいただきました。
現在、全国の130以上の市町村がオーガニックビレッジ事業に取り組んでいますが、
手をあげて始めたものの、なかなか上手く進まなくて困っている所が多いと聞いています。
オーガニックビレッジ事業はわかりにくい
では、なぜ上手く推進できないのかというと、
まず、この事業自体がとてもわかりにくいので、事務局を担う市町村の担当者も農業者も、この事業をきちんと理解するのが難しい、普通の農業政策と違って戸惑ってしまうからだと思います。
実際に、弊社は複数の市町村でアドバイザーとして関わってきましたが、そこにまずハードルがあると感じました。
事業を進める際に、とりあえず他の市町村がやっていることを模倣して進めているところも多いようですが、それですと、それぞれの地域性やこれまでの有機農業の背景が異なるので、同じようなやり方で推進しても思ったような結果は出ません。
この事業は、市町村の行政側が事務局となり、全体を運営していく形ですので、行政側の事業推進の進め方のノウハウが問われてしまいます。
そこで、弊社はどう事業を推進していくかを関与者の方々と一緒に考えて具体的な戦略作りや具体的な事業の推進まで行っています。
なぜビレッジ事業は難しいのか
この事業は、ひと言でいうとオーガニックなまちづくりを目指している事業ですので、単なる農業政策ではなく、地域政策の要素も入っている事業です。
ですから、これまでの農業分野の補助金とは全く毛色の違う事業なので戸惑うのは当然です。
農業者の中には、これまでの農業の補助金と同じように捉えている人も多く、機材購入など直接的な支援のためのお金だと思っている人達もいますが、そうではないのです。
オーガニックビレッジ事業は、有機農業者を増やし、栽培面積を増やすことはもちろんなのですが、単に有機農業を推進するのではなく、その生産者、地域住民、事業者の3者を繋いで、地域全体のコンセンサスを得ていくことが重要です。
その三者をどう繋ぐかという課題は、農業だけでなく、地域づくりのノウハウも必要となります。
そこを農業者や事務局を担う行政担当者だけで考えるのには無理があります。
弊社は六次産業化などで「食による地域活性化」を沢山手掛けてきたので、その経験を活かして支援させていただいています。
このようにオーガニックビレッジ事業は、理解しづらい部分があるので、事業に対する理解をどう深めていくかがまず最初のポイントになります。
つまり、まずはこの事業を丁寧に説明をしてきちんと理解してもらう、事業を推進していくことに賛同してもらうことが重要なのです。一部の人だけが理解しているだけだと、地域ぐるみの推進にはならないからです。
実際に弊社が関わってきた山形県の川西町の場合は、慣行栽培から有機栽培に転換をした生産者が3年間で6名出てきました。
最初にこの本質的な課題解決をきちんとやってから、技術的なノウハウや実証実験などを行ったことが結果に繋がったのです。

何が課題なのかを明確にする必要性
実は邑南町から最初のオファーは講演依頼でした。
しかし、ヒアリングをしているうちに、上手く推進出来ていない課題がどこにあるのかを探っていくと、課題解決の方法(戦略)を考える以前の問題が大きいことがわかりました。
それは、課題が整理できていないということでした。
オーガニックビレッジ事業を推進している市町村では、有機農業に対する意識調査(アンケート)を行っているところが多いようですが、アンケートを実施しただけでそれを活かせないというケースも見てきました。
設問の仕方や調査方法や対象を考慮して精度の高いアンケートを作成できない、
出てきた結果から何が課題なのかを明確にすることができていないケースがあるようです。
(弊社では市町村のアンケート作成と結果分析等の支援もしてきました。)
まずは、どこに課題があるのかが明確になるようにすることが大切なのです。
課題の解決の糸口
課題がなんとなくでも見えてきたら、それを整理することも必要です。
地域やコミュニティが抱える課題の中には、本質的な課題と具体的な課題があります。
つまり、まずは本質的な課題と具体的な課題を切り分けて考えることが必要です。
本質的な課題というのは、オーガニックビレッジ事業の場合は、
農業者同士、農業者と地域住民の繋がりやコミュニケーションや意識がどうなっているかということです。
対して具体的な課題の解決というのは、農業の場合はどうやったら生産量や栽培面積が増えるか、雑草対策はどうするか、人手不足の解消方法、販路の開拓等です。
地域の課題は、いきなり技術やノウハウなどの具体的な課題解決をしても、なかなか上手くいきません。
まずは人と人の関係性の構築、情報の共有、課題に対する意識の醸成という土台作りという本質的な課題の解決をしないとダメなのです。
地域内で「つながり」をしっかりと作ること、これが遠回りのようで近道なのです。
多くの人はそこを端折ったり、面倒がりますが・・・
昔はどの地域にも地域コミュニティが存在していましたが、今やそれは崩壊してしまっています。
都会だけでなく、地方でも隣近所同士、農業者同士でも繋がりは希薄です。
さらに、人口減少も進み、地域の課題は行政任せや一部の人達だけでは、もう立ち行かない時代になっています。
地域課題や農や食の課題解決のためには、まずは本質的な課題を解消してから、具体的な課題解決をする必要があるというのが、私の持論であり、そこを解決するのが私の仕事です。
組織やコミュニティの本質的な課題解決にはワークショップが適する
本質的な課題解決をするためには、人の意識を変えたり、気づきが沢山産まれるように促すので、講演よりもワークショップの方が適しています。
弊社は、農業や食関連の研修、大学の講義、一般消費者向けの畑のイベントなどでもワークショップ形式を取り入れてオリジナルプログラムを作ってきました。
なぜ、ワークショップに力を入れるかというと、組織やコニュニティーを変えていくためには、関与者が変わっていかないといけない。そのために人に行動変容を促すためには、一方的に話を聴くよりも、五感で感じる、対話するほうが効果的だからです。
一人一人に「こういうことなんだ」「そうか、それは本当に大事」と腑に落ちてもらい、その次に「じゃあ、どうしていこうか」というアクションに繋いでいく道筋を立てていくのが、ワークショップというやり方なのです。
特に地域の課題は複合的な課題が多く、かつ多様な考え方の人達が存在しています。
ですから、まず本質的な課題をあぶりだして、課題を理解して、そこからどうすればいいかを一緒に考えていくという道筋をつけていくのが重要なのです。
本質的な課題の解決のポイント

しかし、どんな組織でも地域でも、変化を嫌う人達は必ず存在します。
その人達をどう動かす、どう変えていくかがポイントなのです。
なぜ変化を嫌うのか、新しいことにチャレンジをしたがらないのかというと、
よくわからない、怖いというネガティブな心理が働いているからです。
人はどんな味がする食べ物かわからないものを、いきなり口にしませんし、
どんなものかわからないものに大金を注ぐことをしないのと同じです。
ましてや有機農業という言葉が出てくると、はこれまでの歴史的な背景やイメージがあるので、
誤解や思い込みなどがあるケースも多くなります。
時代や状況の変化に対応しないといけないと思いつつもm
変化を嫌う原因がそこにあるならば、不安や疑問や誤解を払拭することをすればいいのです。
それが、本質的な課題の解決方法です。
お金の切れ目が縁の切れ目・・・を繰り返すのは残念
「魅力的な補助金があるから、ちょっとやってみて、やっぱり上手くいかなかった、、、」という話は農業関連の補助金等でよくある話です。
一時的には補助金のおかげでいい形になったように見えていても、お金が切れたら終わってしまった、結局上手くいかなかったという事業を見てきました。
なぜ失敗するのかというと、様々な要因はあると思いますが、
根本的には、魅力的なオファーに飛びついても、本質的に変化しない、しようとしないと続かないからなのです。
補助金に対する考え方は千差万別です。
補助金は「悪」という人もいますが、私はそれ自体がすべて悪だとは思いません。
ただ、補助金の中には、使いやすいものもあれば、使いにくいものもあります。
オーガニックビレッジ事業のようにわかりにくいものもあります。
使う方が充分理解していないと、上手く使えない場合もあります。
ですので、どのような事業内容なのか、自分にフィットするのか、何ができるのかをよく理解することが重要です。
そうはいっても、補助金関連の行政の文書はわかりにくいのが難点です。
一度読んだだけではわからない事が多くあります。
わかりにくかったら、よくわかる人や部署に聞くのが得策です。
補助金を上手に使っている人達はそうやっています。
そして、目先の利益だけでなく、もっと本質的な自分達の目的を明確化して、そのために補助金を上手に活用していけばいいのだと思います。

コミュニケーション不足を解消
邑南町の会では、邑南町の抱える農の課題を理解してもらい、少しでも「自分事」にしてもらい、
「このままじゃいけない、なんとかしようよ」というモチベーションを醸成していくのが
ねらいでした。
これまで農業者同士が集まっても、お互いに会話をすることがほとんどなかったようで、
担当者の方からは、「生産者が集まって、皆が話をしているのを初めてみました、いい雰囲気でした。」という言葉をいただきました。
本質的な課題解決に取り組むためには、まずはコミュニケーション不足を解消することが第一歩です。

邑南町の3本立て講演会
邑南町では、講演会を3本立てで企画しているそうです。
今回の私の会の後に、次代の農と食をつくる会の会長の千葉氏の講演会、そのあとには、土壌分析の先生の話と続くように企画しているそうです。
私の回で本質的な課題と向き合い、その後に具体的な方法論である技術的な話を聴くという流れはとても理想的だと思います。

打つ手がみえてくる
今回のオファーのように、事業が上手く推進できないがそれをどう打開するかわからなかったが、打つ手や方向性が見えてきたというコメントをいただきました。
オーガニックビレッジ事業は、市町村の生産者や消費者などの声も聞きながら、行政側が事業の舵取りをしなければならないものです。
今回の会を通して、行政側が把握しきれていなかった生産者や消費者の考え方や想い、行政の考え方との意識の乖離などが浮き彫りになったので、次に何をすればよいかヒントになったはずです。
アンケートから
○町の状況や農や食を取り巻く環境の説明を聞いて、感じたことがあれば書いて下さい。
・持続可能な農業の道はますますきびしくなると思います。何か方法を見付けたいと思いました。
・町の人口減、高齢化、担い手不足でこれからの農業があらためてむずかしくなることをあらためて
感じました。
・地球環境の変化にもやもやとした不安を感じてきていますが、年齢(85才)を気にせず考え続け、
もっともっと地域の人と会話を楽しみ、前向きに生きていきたいと思いを新たにしました。
・どうやって農地と生産を守っていくのか。みんなで本気で考えていかなければと強く感じました。
・次の代にどうやってつないでいくのか、知恵を出し合いたい。一つのカギが有機農業だと思う。
・町の中でも有機農業への感心は高まってはいると思う。環境問題を考えて、次世代へ農業を引き継いで
いくことが大切だと思う。日本の食糧自給率の低下が心配です。若者へ農業を教える機会を作れば
いいかなと思います。
・幅広い世代の人達で一緒になって考えていく必要があるのではないかなあと感じました。
・人口減、食量不足、様々な多くの課題、問題、今後これらの課題が有機農法で解決していく事が
出来るのか?答えとなるのか?今後考えていきたい。
○意見交換会(ワークショップ)で感じたこと、気が付いたことなどがあれば教えて下さい
・何をテーマとして考えるのか良くわかった。考えやすい進め方でした。
ありがとうございました。
・みなさんもそれぞれの事情がある中農業をされているのですが、たいがい1匹狼でされているので、
もっと横につながり、素直に意見を言い合えるようにお互いに認め合って応援していける
関係を築いて行ければ良いなと思いました。
・自分ごととして考えることできた。
・ワークショップでの意見交換が言いやすく良いと思いました。
・今までとは少し考えを変えていかなければと思いました。
・工夫されている内容で良かったと思います。
・いわゆるZ世代の方がどの様に考え、今後どうあるべきと考えているのか、
知る機会があれば積極的に参加したい。もう少し深りしたい。
・意見や着眼点がこれほど異なるとは思っていなかった。
・何の違和感も無く自分の思いが出せ、楽しい会でした。
もっと邑南町のことに関心を持つ必要を感じました。
このほかにも皆さん、沢山率直なコメントを書いて下さりました。
更に、この後持続可能な地域の農のために、どのような事をやったらいいかというアンケートにも
積極的に様々なアイディアを書いて下さいました。この皆様の声が今後の邑南町のための貴重な財産に
なったはずです。

最後に
地球環境も我が国を取り巻く状況も地域も、これまで経験をしたことがないような状況に置かれています。
人は本当に大変な状況にならないと動かないものですが、もう既にかなり深刻になりつつあるのではないでしょうか。
農や食の課題は、農業者だけ、消費者だけ、実需者だけで解決できる問題ではなく、様々な立場の人が、繋がって、知恵を出し合って解決しなければならない時代になっています。
どう繋がって話し合っていくか、その道筋を作ることの重要性を実際に参加してみて理解していただけたかなと思います。
邑南町の皆様方が、力と知恵を出し合って持続可能な農を創り出していくことを心より祈念しています。