さる2024年6月~7月にかけて、山形県東置賜郡川西町の各地区7か所でワークショップの企画・運営(ファシリテーション)を行いました。
このワークショップは国の「地域計画」策定に向けて、川西町農業委員会が開催したものです。

地域計画とは

地域計画とは、農家の高齢化、人口減少などが進む中、農地を集約して農作業を効率化するというものです。具体的には、10年後誰がこの土地で農業をするのか、各地区の農業者でとりまとめをして地図に落とし込むもので、来年の夏までに全国各市町村のすべてが策定しなければならないものです。

しかし、農家はそれぞれ独立した事業主であるので、考え方も生産方法も異なりますし、抱えている事情も違います。ですから誰がどの農地をどうするかという問題を話し合って決めるのはかなり難しいことで、簡単に結論がでる問題ではありません。また土地の問題は農業者だけでなく地主も絡みます。
農地の問題は、目に見えない人と人の関係性や心理的な問題が大きく影響します。

農村地域のコミュニケーション機会の減少

同じ地域や地区で農家同士のコミュニケーションや意思疎通が活発かというと、必ずしもそうとは言えません。
昔は農村地域ではよく【寄り合い】などのコミュニケーションの機会がありましたが、だんだんとそのような機会が減少して、コミュニティ意識も薄くなっています。更にコロナでますます隣近所との付き合いがなくなっていて、同じ地区にいても顔は知っているけれど、あまり話したことがなかったり、自治会など一部の人達だけが地域事業に参加していて、他の人は無関心であることも多いようです。

農業のワークショップって?

農業が色々複雑な状況を抱えている中で、仮に形式的に地域計画の地図を埋められたとしても、現実性がなければ絵にかいた餅で、10年後の未来はかなり悲惨な状況になってしまう可能性もあります。
川西町農業委員会では、もっと現実的に将来を見据えてこの問題を地域の皆さんで考えてもらえないかと考えて、ワークショップを実施することにしたという経緯があります。

農業?ワークショップ?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
ワークショップは、通常の会議と異なり、フランクで対等な立場でいろいろな意見を出しあって対話をする場です。

多様性の時代において複雑な課題を解決するためには、これまでの会議形式ではうまく意見をまとめられないこともあります。ですから今の時代、複雑な課題、多様な考え方の人が集まって方向性を決めていくためには、従来の会議形式よりもワークショップの方が適していることがかなりあります。
特に農業や農地の問題は一筋縄ではいかないので、会議ですぐに結論を出そうとするよりも、時間をかけて本音で話し合いをして結果を出すワークショップのほうが適しているケースが多いのです。

お酒のない「寄り合い」

そこで今回は川西町や自分達の地区の農業の現状を地域の農業者だけでなく、地域の住民にも知ってもらうためのワークショップを開催することになりました。簡単にいうと、【お酒のない寄り合い】です。(茶菓はありますが、、、)

地域の農業問題は地域全体の問題

今回のワークショップのゴールは、農業や農地の問題は地域全体の問題ということを一人でも多くの皆さんに認識してもらうことでした。
農業が抱えている問題は、農業者同士だけで集まって考えても解決しないからです。

話合いの前に

アイスブレイクが終わった後に、まず川西町にIターンしたりUターンしてきた方々に、外からみた川西町の良さについて話をしてもらいました。このあとの話し合いに繋げていくために、川西町や農業の魅力を違う角度で知っていただきたいという意図がありました。

元地域おこし協力隊で定住した方の話

その後に、その地区に関するアンケートを実施して、皆さんの情報や見方を見える化しました。
同じ地域に住んでいても、知っていること知らないこと、困っていることがちょっとずつ違ったりのが浮き彫りになりました。これがコミュニケーションの壁を取り除き、次の対話のきっかけになっていきます。

川西町の農業の現状

農業委員会から川西町の農業の現状について説明をしていただきました。
町でも農業の高齢化が進んでおり、農家の60歳以上の割合が80%を占めています。(2020年)
また昨年のアンケート結果では現在就農している農業者の中でも4割以上が10年後に離農を検討しているという結果もありました。さらに、各地区の人口推移のグラフでは、具体的な数字がわかり、人口ピラミッドの形が逆三角形であることが視覚的にもわかりました。
なんとなく地域農業が衰退していくのが感覚的にわかっていても、農業の現状をデータや数字で見ることはほとんどないのでとてもよい説明の機会だったと思います。

田畑の多面的機能

さらに農業委員会からは農地の多面的機能についても説明していただきました。
田畑は作物を作る役目だけでなく、多面的機能があります。
農地を守ることは、地域の自然環境や災害などのから守ることにも繋がることを説明してもらいました。
農地の問題は農家だけでなく地域全体の問題であることを認識してもらいたかったからです。

 田んぼの多面的機能 (農水省HP)

非農家の住民が農家と一緒にできること、サポートできること

ここからWSの核心部分に入っていきました。
農業や農地の問題は地域全体の問題だということを理解度を確認した上で、グループの話し合いに入りました。
農業委員会からの説明にあったように、農家だけで地域農業を支えていくのは厳しい現状を踏まえ、非農家の方々が農業と関わり支える接点がないかどうかなどグループごとに考えてもらいました。

例えば、非農家の人達が、農作業の中で何か手伝えること、役に立つことはないのかというテーマを投げました。
最初は「そんな簡単に人になんか任せられないよ」、「素人の人には無理だよ」と言っていた方も、他の人の意見を聞いたり、ネックになっている課題を明確化していくと、「もしかしたらできるかも」、「これならまかせられるかも」という気持ちに変化していく方が多かったのが印象的でした。

話合い文化が根付いている地区の方達

例えば、「農作業の中で非農家の人に代わってもらえる作業や仕事にはどんなものがありますか?」という問いに対しては、水稲の場合は「苗箱を運ぶ」「籾を運ぶ」「機械の洗浄」など具体的な作業が出ました。また、水稲以外の野菜や果樹などでは「直売所への納品」「出荷調整補助」などの意見がでました。
他には「事務処理を手伝って欲しい」、「繁忙期の食事作りなど家事を手伝って欲しい」などなるほどと思うような幅広い意見が沢山でました。

しかし一方で、そんな人どこにいるの?どの程度やってもらえるの?お金はどうするの?という疑問も当然出てきます。新しいことをやる際はかならずネックになる課題です。

お金と人の問題から入って無理だと思ってしまうと、何もできなくなってしまいます。
(人もお金も集める方法はありますが)
ですから、まずはそこから離れて話し合いを進めてもらうようにしました。

年齢も立場も違う人が集まると面白い意見が出てきます

耕作放棄地問題もネガティブからポジティブに思考を変える

「耕作放棄地をどう活用していくか」という問いに対しては、本当に様々なアイディア、面白いアイディアが出ました。
耕作放棄地問題というネガティブな課題も、実はポジティブに考えていくことができるということを感じていただくことができたと思います。

最後には、どうやって人を集めるの?という人の問題も取り上げました。
非農家の人達が農家の仕事を手伝うとしたら、どのようなマッチング方法があるのか、仕組みをどう作るかという様々なアイディアまで出すことができました。

農地や農業の問題を全てネガティブに捉えるのではなく、ポジティブに考えて解決していくというのがワークショップの大切なポイントでした。
また、課題やハードルは多くても、「何かできることはある!」「自分も出来そうなことがある!」ということを参加者の方々に気づいてもらい、地域で一緒に考えていこうよ!という素地を作るのが今回のWSのゴールでした。

課題解決のポイントは 相互理解の素地を作ること

農業者の高齢化、耕作放棄地の拡大、食料保証問題、コスト高、、、直面している農や食の問題は山積みです。特に農や食の問題は本当に複雑な背景を持っていたり、簡単に解決できそうもない問題ばかりです。

その根底には、なかなか相互理解が進まないという課題があります。
そういうことをおろそかにしてしまってきたのかもしれません。
農業者同士、農業者と地域住民、農業者と消費者、分かり合えそうで分かり合えないことだらけです。
分かり合っていないのに、仕組みなどのハードを作っても、その仕組みはきちんと機能しませんね。
とかく世の中ではハードを作ればどうにかなると思いがちですがそうではありません。
ハードを作る前に理解しあえる素地をきちんと作る事が、ハードを機能させることや持続可能な社会には不可欠であると考えています。

でも相互理解を進めようとしても、どのコミュニティにも、他の人の考え方を排除したがる人、変化を拒む人、抵抗感をあらわにする人などが必ずいます。地域や組織の問題には、そのような方々も一緒になって、取り組まないといけない課題が沢山あります。
しかしそういった変化を嫌う人達の心を丁寧な対話によって動かすことは可能なのです。
でも一度やってだめでも、あきらめないことです。

相互理解を深めるポイント

相互理解を進めるポイントは、話し合いを進める中で、対立を生まないようにする、ゆるく繋がる、共に創る流れを作る事です。

小松地区の参加者のみなさんと

玉庭地区のワークショップでは、川西町の茂木町長が飛び入りで参加して下さり、皆さんから出てきた意見を熱心に聞いていただき、町で進めようとしている事業なども説明していただきました。

アンケート結果より

・参加者全員が地域の農業のことを心配しているのがわかった
・地域の状況についていろいろな人の意見が聞けてよかった
・地域の農業の問題を「社会問題」として結びつけることに共感した
・やれば出来そうなアイディアが意外とあった。ただお金の問題はネックになるだろう
・耕作放棄地問題は解決困難だと思っていたが、皆と意見を交わし解決の糸口になるような希望をもてた
・農家と非農家が感じている事に相違があるが、その壁がなくなれば地域住民全体で色々な作業が
 できると感じた
・過去は変えられないが、未来は変えられる!
・若い人のアイディアが良い、年をとると現実的になる
・農業者以外の方に農業の多面的機能の理解が進めばよいと感じました。
・農業者減少はいつもマイナスな事ばかり考えてしまうが、「楽しく話し合う」中で希望が持てる気がした
・農地は農家が守っていかないといけないという固定概念があったが、そうでないことに気づいた。
 皆で守っていくという気持ちになれて気持ちが少し軽くなった
・農作業を夫婦二人でしているが、作業の終わりが見えなくて、焦りや不安があったが、
 今日の話を聞いて、人に頼っていいと思えた、いろいろアイディアがあることが知れてよかった
・今後農業をやっていく上での作業分散や経営のヒントになるアイディアが集まった。
・農業者でない自分でも農業でお手伝いできることがありそうだとわかった
・普段それぞれが感じている問題意識のすり合わせができてよかった

記載したのはほんの一部ですが、今後に向けてのヒントになるようなコメントを沢山いただくことができました。
良かったことだけでなく、まだモヤモヤしていることや理解しきれていないことを汲み取ることも大切なので、その点も書いていただきました。

出し合った意見を黒板に書いて整理して、ポイントを明確にしていく

講演者とファシリテーターの違い

食や農業のワークショップを企画運営するためには、ワークショップを行うための技術だけでなく、食や農の専門的な知識や経験も必要だと思います。
私自身がこれまで食と農に関する様々な仕事や現場経験をしてきたことがありがたいことに活かされていると思っています。

私は講演も行いますが、ワークショップではファシリテーターですので、私が「こうしたらいい」という事は言いません。ただ、意見交換や話が進みやすくするために、流れを作ったり、課題の整理や抽出、なぜそう思うのか等の疑問を投げかけたりして、参加者の皆さんが答えを導き出すお手伝いをする役目です。

誰かのやり方、他のところのやり方を聞いて模倣することも課題解決の方法で簡単だったりするのですが、それぞれ置かれた状況も条件も異なるので、自分達にあった持続可能性の高い解決方法を見つけるために、ワークショップという形の支援を今後も行いたいと思っています。

最後に

ワークショップは、同じテーマで何回か行って課題を深堀していき、具体的な解決策を見いだすところまで継続していくことが重要です。今回の結果を踏まえて、川西町の皆さんが更に話し合いを進めて次のステップに行けることを願っています。
最後になりましたが、今回のWSでは川西町農業委員会の皆さんに本当にお世話になりましたことをこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。