2023年3月22日に、「置賜地域若手生産者の有機農業を語る会」にて、「有機農業を考えるワークショップ」を行いました。この会合は、まず「次代の農と食をつくる会」の代表理事であり、有機農業者であり各地で指導をしている千葉康伸氏の講演のあとに、私のワークショップを行うという構成で行われました。
参加者は置賜地域の有機農業、慣行農業の若手農業生産者さんの方々、置賜地域の行政関係者の方々、置賜地域の食の情報発信などに携わっている地元の大学生の皆さんでした。
置賜地域には有機や慣行栽培の若手生産者がいるものの、これまではほとんどお互いに接点がない状態でした。しかしこの地域の新しい時代の農業を活性化していくには、個人個人や市町村が単独で頑張るだけでは限界があり、点を面にして繋がっていく必要があります。
昨年度、オーガニックプロデューサーとして山形県置賜郡川西町のオーガニックビレッジ推進協議会の販路開拓の支援をしてきましたが、川西町だけでなくもっと周囲の市町村とも繋がっていけたら、もっと出来る事がありますし、地域全体が活性化していけると考えていましたところ、今回山形県置賜農業振興協議会から地域の人達が繋がるためのワークショップを行いたいという依頼をいただきました。
多様性の時代のチーム作りには、まず円滑なコミュニケーションの場が欠かせない
多様性の時代に新しい取り組みを始めるためには、これまでとは違う「繋がり方」が必要になります。何となく阿吽の呼吸でまとまれる時代ではなく、コミュニケーションをして成り立つ繋がり方をしないといけない時代になっています。
コミュニケーション(対話)を円滑にするには、対話しやすい場作りがとても重要です。皆さんが安心して本音で話し合って繋がっていくための場が「ワークショップ」です。
今回は、その場を作っていくワークショップデザイナーとして、ファシリテートを行いました。
会議とワークショップの違い
従来ですと、農業でも地域活性でも、まず協議会やグループなどの組織(ハード)を作って、そこに該当しそうなメンバーを招集して、第一回会議を始めるというパターンがよくあります。私も地域活性化や商品開発会議などによく行くことがありましたが、メンバーの方々の顔を見ていると、なぜこの場にいるのかよくわからない、趣旨が腑に落ちないという様子なのに、さっそくプロジェクトの進め方や具体的な内容をその場で決めなくてはならないことがありました。また最初から会議の回数や完成時期が決まっていると、無理な進め方をしなければならないで、関わる私もどうしていいのかわからないものもありました。
このような形の場では、いい意見が出にくい、本音を言いにくい、忖度しやすい、決めてもしこりが残りやすい、自分事になりにくいなどが起こり、結果的に組織が上手く機能しなかったり、自走できなかったりする例をみてきました。
私自身がこのような会議に参加してきて、これではなかなかいい物やいい形は産み出せないなと感じた経験から、今から5年程前にコミュニケーションの場作りの専門家「ワークショップデザイナー」という資格を取得しました。
新しい取り組みをするためのチームを作るためには、いきなり堅い会議をするよりも、もっと緩く、ざっくばらんな雰囲気で、お互いの距離を縮めながら対話(コミュニケーション)を重ねて、みんなで合意形成をしていくという過程が必要です。皆が腹落ちしている分遠回りのように思えても、会議より良い結果が得られることが多いのです。
ワークショップは会議のようにその場で何がなんでも結論を出すための場でなく、コミュニケーションを活発にして、「こうしたらいいんじゃないかな」という案を導き出したり、「もしかしたら、これって同じような事を考えているよね、じゃぁ、一緒にやってみない」とか、「この方向なら一緒にできるよね」、という感じでゴールを見つけてきます。つまり共感して、同じ目的を見いだして納得して、繋がっていくゴールをみつけていくための場です。
私はワークショップデザイナーを取得してから、食品関係企業や農業関係者向けに、課題解決、新商品開発、新規ビジネスのためのワークショップや、大学や家庭科教員向けに、食の体験ワークショップも行ってきました。人が楽しそうな顔になったり、考え方が変わっていくのを間近で感じられるこのワークショップには毎回ワクワクさせられます。
考え方が異なっても農業者同士が繋がってほしい
農業や農産物の世界には、それぞれ異なる価値観や考え方をもっていて、多種多様な人々がいます。他の産業よりも顕著だと思います。ですから、何か一緒にやるためにチーム作りをしようとしても、なかなか難しいことがあります。
私自身が15年以上農産物に関わってきて感じるのは、農業関係者は、相手を認めない、批判する人が多いということです。例えば、有機農業者と慣行農業者がお互いのことを悪く言う場面に出くわしたり、有機同士でも異なるスタイルの農業者同士が、相手を批判したり否定する言葉を耳にしてきました。これは悲しいことですが、農業のあるあるです。これは日本の農業の未来や食の未来を考えた時に、分断を生むだけでよりよい形になるとは思えません。
私は、有機と慣行とどちらが良いいと判断する立場にありませんし、どちらも大切だと考えています。農業にも多様性は必要ですし、私達の食卓を支えている人達がどんどん減少していたり、食卓と農の距離がなかなか縮まらない中で、有機と慣行とどっちがいいとか悪いとか分け隔だてて、非難しあっている場合ではないと考えるからです。
分け隔てするのではなく、一緒にできることは繋がってやればいいのではないでしょうか。
私は、新規就農者から江戸時代から続く農家までお付き合いがありますし、大きな生産団体から小規模経営の農家まで様々なな方々と関わりがあります。私は基本的に分け隔てなく色々な農業者の方々と関わるスタンスです。(八方美人的に思う人がいるかもしれませんが、そうではありません。)
有機か慣行栽培かとか規模や品目などは関係なく、どうしたら一人でも多くの人が、食や農に関心をもってくれるか、どう繋いだら農産物も食べる人も関わる人もHAPPYになるかということが重要だと考えて仕事をしてきました。
ぜひ今後若い人達に新しい繋がりを作るきっかけになればと思い、今回の有機農業を考えるワークショップをデザインしました。
繋がる第一歩としてのWS
今回の会合では、まず千葉さんの熱くてわかりやすく実践的かつ有益な情報満載のお話で、皆さんが大いに刺激を受けたことと思います。
刺激を受けた後に、じゃあどうする?というアクションに繋がっていくための第一歩のワークショップを行えてとても良かったと思います。
今回のワークショップでは、安心な場作りをしてから、初対面の人達と打ち解ける、自分の考えを話す、他者理解をする(他者と自分との違いに気づく、いろいろな考えの人がいる事に気が付く)、共通点を見いだすなどのワークを行いました。
もちろんこの地域の有機農業を考えるためのWSですから、このメンバーの皆さんに合わせて、地域性や有機農業を絡めたオリジナルのワークで進めました。
共通点を見いだす
ワークショップの最後には、有機農業に関する共通点を見いだすためのワークを行いました。最後の問いは、有機農業で「ワクワクすること」と「困り事」をそれぞれ書いてもらい、それをシェアしてグルーピングして「見える化」するというものでした。(いきなりこの問いを聞いても本音や次につながるような答えはなかなか返ってきません。それまでのワークがあるからこそです)
すると、それぞれいくつかの共通点が見えてきました。
共有の目的というと、困ったことの解決にまず目がいきそうですが、イノベーションを起こすためには、「ワクワク」しながら共創するというポイントがもっと重要なのです。人はワクワクすることに心揺り起こされて、ポジティブになれるからです。
今回のWSはここまででしたが、次回は共有できる目的を見つけるために、このワクワクのポイントを掘り下げていけばと思います。
参加者からのコメント
最後のチェックアウトでは、ワークショップで気づいたこと、感じたことを書いていただきました。
コメントを読むと、皆さんそれぞれ気づきがあったようですし、ワクワクを感じていただけたようで、
本当に良かったです。
こちらではその一部をご紹介します。
・自分の固定概念以外の視点がわかって面白かった
・答えを出す必要のないワークショップは色々な事を考えることが
できて面白かった
・とにかくワクワクしています!今日話が聞けたこと、話したこと、
内容に縛られているわけではありませんが、何だかこれからが
とにかく楽しみです!
・初めてお会いする人とも気軽に話すことができてよかった
・農業を通じて、同じ方向(地球や人々の未来)を見ている方々と
お会いできてよかった。今後も「ゆるい」繋がりでお互い何かできる
ことがあれば手助けしあえればと思う
・個性豊かで多様性あるメンバーが集まっていると嬉しく感じました。
こういった輪を大きくしてくことが、地域活性に繋がっていくんだろ
うと思います。楽しく、ワクワクみんなが笑顔になる仕組みを作って
いきたい。
・有機栽培と慣行栽培の農家さんが一つのワークショップを一緒に
することはこれまでなかったので、お互いの話を聞けて勉強に
なりました。
・有機農業をキーワードに、多様な価値観、考え方を持った人達が
いて、非常に面白かった
・有機と慣行栽培の人達がもっと話をすべきだと思った
・有機に関する会に集まった人達だけれど、年齢、出身地、仕事に
よって有機への捉え方が違うのだと感じた
多様性の時代の鍵は「ゆるく繋がる」こと
たとえ考え方が違っていても、お互いに歩み寄れるところは歩み寄ればいいのです。100%の合意でなくても構わないんだと発想をちょっと変えるだけで、どこか新しい繋がりを作る共通ポイントが見つかったり、難しい問題の解決の糸口が見つかったりします。つまり「ゆるく繋がる」ことが大切なのです。
「ゆるく繋がる」には、たった1回のワークショップでは難しく、いくつものステップが必要ですし、
一緒に作り上げていくことが大切です。ですからワークショップを何回も「続けていく」事も大切なのです。
今回は地域の農業者と行政関係者が主のワークショップでしたが、食と農がもっと繋がるために、生産者と消費者を対象にした「食と農のワークショップ」も是非やってみたいと思いました。(ご興味のある方がいらしたら是非ご連絡ください。)
多様性の時代の農と食のコンサルティング
これまで、地域活性化、食の商品開発、新事業開発などの課題解決というと、いわゆるコンサルティングや講演という形が多かったと思います。確かに具体的な事例を提示したり、方法を提案をすることで、課題解決の方法を見つけることができます。しかし課題が複雑化したり、多様な価値観が混在する場合は「ワークショップ」という課題解決の方法もあります。
言葉や対話だけでも腹落ちできないケースもあります。そういう場合は、五感を使う体験学習型ワークショップを用いるのも効果的です。
コンサルティング、講演、ワークショップを織り交ぜる形で課題解決していくのも良いと思います。
弊社では、ゴールやお客様に合わせた形で一緒に課題解決をしていきたいと思っています。ですから、コンサルティング、研修(ワークショップを含む)、講演という多様な方法で支援をさせていただいています。
もし、地域内でも組織内でも農業や食に関することを一緒に考えてみたい、チーム作りをしたい等、新しい開発をしたいなどで、ワークショップに興味を持ったら是非ご相談下さい。一緒にワクワクしながら新しい風を吹かせるお手伝いが出来たら幸いです。