酸味は人間の基本味覚である五味(甘味、酸味、塩味、苦味、うま味)の中の一つです。
この酸味はなくてはならない味ですが、最近は昔ほど酸っぱいと感じる食品が少なくなってきていませんか?

酸味と香りを楽しむ香酸柑橘類

酸っぱくない梅干し

例えば梅干し。昔ながらの梅干しは基本的に塩と梅だけで漬けていますが、最近は減塩されているものが好まれるだけでなく、蜂蜜や砂糖、うま味成分を添加したもの、あるいは調味液などを使って酸っぱくしていない梅干しが主流になっています。一口食べて「すっぱ~い!」と顔をしかめるような酸っぱい梅干しはあまりみかけなくなりました。

グレープフルーツは不人気

しっかりした酸味のある柑橘で人気があったグレープフルーツも、最近はスーパーで沢山売られなくなってきました。その理由を、フルーツの輸入商社である船昌商事の関野社長にもお聞きしたところ、この20年で輸入シェアは16%から2%近くまで落ちているとのことでした。酸味の強い柑橘類は敬遠される傾向だそうです。またグレープフルーツフルーツの場合は、含まれている酵素が、降圧剤や高脂血症治療剤など一部の医薬品の効果が強くしたり、副作用がでることが報道されてから、避ける人が増えて需要が減少したという要因もあります。
グレープフルーツよりもポメロやスイーティーなど酸味の弱いものが好まれたり、国内産の柑橘類も、紅まどんな、せとかなどまろやかな酸味や、ジューシーさ、甘さのあるものが人気です。(人気の要因は味以外には皮が剝きやすいなどもありますが)

グレープフルーツとそら豆のマリネ(旬菜カレンダーより 新田作)

このほかにも大手調味料メーカーから「やさしい酢」が登場していたり、強い酸味よりも柔らかい酸味が好まれる傾向が続いています。

酸味は後天的な味覚形成によってわかる味

酸味というのは、もともと腐敗した食品が持つ味です。ですから私達人間は生物として本能的に忌避する味です。しかし人間は後天的に学習して、酸味を美味しく感じるようになり、酸っぱい味を受け入れられるようになっています。つまり様々な食の経験の積み重ねが影響するのです。
世の中や食環境が変われば、食の経験も変化します。すると人々が求める味覚や傾向も変化する訳です。体を動かして汗をかくような仕事やスポーツをする人のほうが、レモンなどしっかりと酸味のあるものを欲しがる傾向があると思いますが、現代人は一日中パソコンに向かって作業をしている人の方が多い時代ですので、昔のようにあまり強い酸味は好まれなくなっているという見方もできるのではないでしょうか。

レモン畑

酸味は甘味を引き出す

食品を作る際に、酸味が加わることでより甘さを感じやすくなったり、味が調和しやすくなることがあります。例えばショートケーキは、酸味のあるイチゴとクリームの甘さで、酸味と甘味の相互作用が産まれて、バランスがとれておいしく感じるのです。

フルーツやトマトなどは「BRIX」(糖度)だけでなく、糖度と酸味のバランスを示す指標である「糖酸比」を測ることがよくあります。つまりただ甘いだけでなく、甘さを引き立てるためには、ほどよい酸味がおいしさには重要だということの表れでもあります。

アメーラトマト 甘みと酸味のバランスを大切にしている

塩味を和らげる

酸味には塩味を和らげる効果もあります。ちょっとしょっぱいなと思った時に、レモンを絞ると塩味が気にならなくなったという経験を持つ方も多いと思います。また、料理に醤油をかけるよりもポン酢醤油のほうがマイルドな感じになったり、口に入れたときにバランスがよくなると感じるのは、柑橘類の酸味が加わっているからです。

料理によって酢を使い分ける

酸味は食品の味を構成する時に、なくてはならない重要な味だということがおわかりいただけましたでしょうか。
酸味といってもクエン酸を始めいろいろな酸の種類がありますので、酸っぱさにもいろいろあります。ですからどんな酸を持つ調味料や食材を加えるかによって料理の味も異なっていきます。

酸味をどう効かせるか、どう調和させるかで料理の微妙な表情が変わるので、私は料理によって酢を使い分けています。穀物酢、米酢、りんご酢、黒酢、ワインビネガーなどそれぞれ風味や酸の強さが異なります。
あまり酸っぱいのは好きでないという方も、いつもと違う酢を使ってみるのもいいかもしれません。
料理でなくて、ドリンクとしてももっと酢を取り入れるのもいいですね。

酢の健康効果

酸味はおいしさを構成する要素であるだけでなく、食欲増進や消化吸収を助けたり、静菌効果などもあります。そう考えると、あまり酸っぱいのは好きでなくても、上手に自分にあった酢の摂り方や使い方を見つけて下さい。
これから暑くなりますので、酸味が恋しくなる季節です。
ほどよい酸味で健康的に美味しい食を楽しんでいただけたらと思います。