苺狩りに行ったことがある方は多いと思いますが、
屋外ではなくて、屋内で収穫をしたと思います。
苺はハウスの中で育つものというイメージですよね。

では、なぜイチゴ狩りも売っている苺もハウスの中で育てられているのでしょうか??

紅ほっぺ

昔、私の家の庭にイチゴを地植えしていました。
5月頃になると赤い実をつけて、明日食べようと楽しみにしていたら、アリに先に食べられてしまった
思い出があります。普通に外でも育つんです。というか、もともとは露地で植えられてきたものです。

施設栽培

イチゴのように、屋外でなく施設内で栽培することを施設栽培と呼びます。
反対に屋外で栽培するのは、露地栽培と呼びます。

ハウス栽培という言葉と、施設栽培という言葉は厳密には違いますが、
家(施設)の中で栽培していると意味でほぼ似たような使い方をしていることがよくあります。

イチゴの施設栽培の中には、土に植えられているところもありますし、
栽培槽が作業しやすく、収穫もしやすい高い位置にある高設栽培のところもあります。

土を使ったイチゴ栽培 マルハナバチで受粉
高設栽培


なぜイチゴはハウスで栽培されているの?

施設内は風雨を遮ることができますし、屋外よりも温度が高くなります。
したがって、イチゴに限らず農産物は屋外よりも早く生育できますし、
風雨などのダメージを回避できるので、安定的に量も質も良い物を供給できるというメリットがあります。

イチゴの場合、理由はそれだけではありません。
イチゴの需要が最も高いのは、クリスマスの時期です。その時期に合わせて供給したいのですが、
本来のイチゴの旬は「春」です。
すると、だいたい5か月のズレがありますね。
クリスマスの時期に真っ赤なイチゴを供給するためには、この5カ月のズレを解消する必要があります。
そのために、真っ赤なイチゴができるようにハウスで人工的な環境づくりをしているのです。

どのように人が環境づくりをしているかを少しお話しします。
イチゴは新芽から花が咲き、実になるのですが、
花や実になることを「花芽分化」と言います。
この花芽分化のタイミングは植物によって違うのですが、
イチゴの場合は、本来は秋に気温が下がり、日が短くなることに反応して
花芽を分化させていきます。

しかし、クリスマスに間に合わせるためには、もっと早くに花芽分化をしないと
間に合わない
のです。
ですから、夏のまだ暑い時期に
「もう秋だよ、気温が下がってきたよ、日も短くなってきたよ」
という状態を作って、花芽分化を進めます。
遮光をしたり低温にしたりすることにより、
苗に勘違いさせていきます。
次に、イチゴが赤い実になるためには「受粉」が必要です。
受粉は寒すぎても暑すぎても上手くいきません。
ですから、ハウス内を春のようなポカポカ陽気に加温して、
受粉させて、実をつけさせていきます。

イチゴの旬は「春」から「冬」に

イチゴのように季節をずらして作る栽培(促成栽培、抑制栽培)は、
他の農産物でも行われています。
しかし、イチゴののようにニーズに合わせて栽培していくと、
植物としての本来のイチゴの旬とが違ってきます。
野菜ソムリエ講座でイチゴの旬を聞くと、
だいたい皆さん「冬」と答えます。
植物としての旬と商品としての旬が違っているのです。

施設栽培の難しさ

今から20年位前、近所にあったイチゴ園に毎年よく買いにいっていました。
園主と話をしていると、
「今年、ちょっと失敗しちゃって」という年があったり、
「ちょっと病気が出ちゃって」という言葉を聞いたりしました。

その当時、私は野菜のことを何も知らなかったので、
施設栽培ならば、毎年同じように作れるものだと思っていましたし、
管理されているハウス内ならば病気も虫もいないと思っていました。

でもそれは間違いでした。
施設栽培でも、農産物は病気になります。
いくら防除しても小さな虫が侵入してきたり、
カビやダニなどが広がることもあるということを農産物の仕事を始めてから知りました。

施設園芸といっても、簡易的なパイプハウスと、LEDを使った閉鎖的な植物工場では管理条件や環境が異なりますが、施設栽培で農産物を作るのは、露地よりも簡単とは一概には言えないのです。

施設園芸の経営も容易ではない

ここまでお話しをしてきて既に気づいている方もいると思いますが、
施設栽培は、ハウスを建てて、人工的に環境を整備するのですから、
まず施設を建てるのに初期投資がかかり、更にランニングコストもかかる方法です。
そう考えれば、栽培する農産物は高単価商品であるか、回転率の高く収量が高いものが適しています。
しかしそれだけでは持続的に経営していくことはできません。
美味しいものを安定的に作れる技術と供給先の確保が重要になります。

近年、色々な企業が農業参入して施設栽培をしていますが、
施設栽培で安定的に収益を上げるのは、皆さんが思っている以上に難しいのです。

イチゴは高い?

今シーズン、「イチゴが高い」という声をよく耳にします。確かに値段が上がっています。
資材代も上がっていますし、肥料代も高騰しています。
加温するための重油代も上がっています。
ですから、価格が高くなるのはやむを得ないことだと思います。

イチゴのリゾット(オリジナル)

そうはいっても、日本人はイチゴは大好きですし、
世界的に見ても日本のイチゴのクオリティは群を抜いています。
様々な品種がどんどん出てきていますので、是非自分好みのものを見つけて、
食べていただけたらと思います。

おいしいイチゴの買い方

イチゴは、一番実、二番実と実をつけていきます。
だいたいクリスマス頃に一番実がなるように調整して栽培されています。
(最近は、10月頃に出てくる品種もありますが)
一番実よりも、二番実や三番実のほうが、味が乗って美味しくなりますし、
少し値段が下がることもあります。

ですから、私は暮れにはイチゴを買わず、年が明けて少し経った頃にイチゴ園にいき、
お世話になった方々へ寒中見舞いとして完熟で美味しいイチゴをお送りしています。

また、買いに行くのは晴天が続いた時です。
お天気が悪いと、イチゴの収穫量が減りますし、味が乗りにくくなります。

イチゴ園のイチゴは完熟して出しているので、届いたらなるべくすぐに食べるのがお勧めです。