災害時にインフラが復旧するまでの間の食事を実際に体験するワークショップを大学講義内で行いました。
東日本大震災後、非常食や災害食は進化しています。何をどのくらい備蓄すればよいのかを座学で学んだあとに、実際に作ってみる、食べてみる体験学習を行いました。
災害時の食の呼び方については、色々な呼び方があるのですが、私の講義では、災害時すぐの命を繋ぐための食事を非常食(乾パンや栄養補助食品など)、被災後にライフラインが完全復旧するまで主に家庭内で食べる食事を災害食と呼んでいます。

災害食を用意しておいても、実際に食べたことがない、調理したことがないと、いざという時に不安になったり、ストレスになることもあります。ですから、平常時に実際に作ったり食べてみるという経験をしておくことが重要なので、大学の講義でもワークショップを行っています。

実際に東日本大震災や熊本震災で被災した学生もいて、「あの時、こういうものが作れる、食べられると知っていたらよかったのに」というコメントもありました。

災害食作りの3つのポイント

災害食作りのポイントは、①簡単調理であること、②栄養バランスを考えること、③ストレスを和らげるようにするという3つです。
通常と異なる状況下で、この3つを意識して食事を用意することがとても重要です。

火を使わない簡単料理

ライフラインが途絶えてしまう場合、または限りあるライフラインで調理をする場合は、火を使わない料理を考えなければなりません。缶詰や袋を開けてそのまま食べられる食品などが重宝します。
今回は、ひと手間かけて、乾物と缶詰でサラダを作りました。

材料は、切り干し大根、乾燥野菜(小松菜)、ツナ缶、マヨネーズです。全ての材料をビニール袋に入れて揉み込むだけで、ツナサラダの出来上がりです。切り干し大根は水で戻さなくても、ツナ缶の汁とマヨネーズで充分に柔らかくなります。
これは、日頃からサラダに親しんでいる学生に評判のよい一品です。

火を使わないサラダの材料

災害時には野菜不足が懸念されます。生の野菜が入手できなくても、食物繊維などの野菜に多く含まれる栄養素を摂取できる乾燥野菜は重宝します。

大根のサラダ

パック(袋)調理

ガスや電気などのライフラインが途切れたり、不安定な状況においては、カセットコンロが活躍します。カセットコンロを使って調理をする場合は、通常の調理に近い状態で加熱調理が可能ですが、洗い物などで水をたくさん使わないようにするために、袋を使ったパック調理を行います。
耐熱性のあるビニール袋に材料を全て入れて、湯煎で調理することで簡単に温かい食事を用意することができます。

湯煎して加熱
鶏じゃが

このパック調理法は、なるべく空気を抜いて真空状態に近づけることがポイントです。(真空に近くなれば、風味や栄養素が逃げにくくなるのと、効率よく味が染みこむ、形が崩れにくいなどのメリットがあります)
今回のワークショップでは、焼き鳥缶と常備菜のニンジンとジャガイモを使って、鶏じゃがを作りました。
肉の塊が入っているので満足感の高い温かい一品です。

ローリングストック食材を使った簡単料理

ローリングストックは、災害食になる食材を備蓄する→食べる→買い足すを繰り返していく「使いながら備える」という方法です。コロナ禍で外出がままならない時期に、この考え方がかなり浸透してきました。

では、何を備えたらいいかというと、災害時にも栄養バランスを考慮できるように、炭水化物、タンパク質、脂質の三大栄養素を含んだ食品を備蓄することをお勧めします。

具体的には、炭水化物はパックやフリーズドライのご飯、短時間で茹でられる麺類など、タンパク質は肉や魚、豆類など、脂質は肉や魚、菓子類などです。

ローリングストックしている食材で作るドライカレー

ローリングストックに向く食材は、缶詰、レトルト食品、乾物、フリーズドライ食品、常温できる野菜などです。

特に、タンパク質を補うためのローリングストック食でお勧めなのが、乾燥タイプの大豆ミートです。ミンチタイプはそぼろ状態になっていて、短時間で簡単に調理が出来るので災害食に向いています。

栄養バランスを考えた簡単災害食

今回のワークショップでは、大豆ミート、災害時に不足しがちな野菜を補給するための野菜ジュース、常備菜の玉ねぎやカレールーなどのローリングストック食を使ったドライカレーを作りました。

また、ご飯は、水やお湯を入れるだけでご飯が作れるアルファ米にしました。あまりにも簡単においしいご飯が出来るので、日頃からアルファ米を使いたいという学生もいました。

ドライカレー

ストレスを緩和する簡単スイーツ

甘い物は、災害時のストレスを緩和する役目をするといわれています。買い置きしてある市販のお菓子でももちろんよいのですが、ホットケーキミックスは、ローリングストックをしておくと便利な食品です。


災害時には、卵や牛乳などがない事も想定して、水を加えるだけでもホットケーキは作れるということを体験してもらいました。
ホットケーキミックスの中には、粉状の卵や脱脂粉乳が入っているので、それだけでも作れるようになっています。

水だけ入れて作っても充分おいしい

おいしく作るための作り方を知ることも大切ですが、限られた状況下でも料理を作れる方法を知っておくこともとても重要です。
これがないから作れないと諦めるのではなく、なくても出来る、何かで代用するという頭の切り替えができるような能力はこれからの時代、ますます必要になると考えています。そのためには、サバイバル的な食べ方、学び方を学ぶ機会も大切ですね。

大昔、高校時代の家庭科の先生が、トンカツか何かを作った時に、粉と水とパン粉だけでも、フライ衣は作れるんですよ、卵がなくても大丈夫なんですよと教えてくれたことを今でも覚えています。
(要は、粉をパン粉を結着させられるものがあればよいということです。)

いざという時に役立つ知識を身に付ける

ワークショップの最初に、「今日は4品作ります」と話をしたら、「え~そんなに作るんですか?」といった反応でした。
しかし、作ってみるとどれも簡単であっという間に出来てしまったという感想でした。
野菜ジュースや大豆ミートなど初めて使う食材もあったようですが、使い方がなんとなくでもわかれば、自分でも使ってみようと思えます。
聞いたことがある、見たことがあるだけでは、なかなか自分で買ったり調理はしないものです。(大人も含めてです。)
ですから、いざという時に役立つ知識が身に付くためには、話を聞くだけでなく、体験するワークショップはとても重要だと考えています。(実は準備をするのは結構大変なのですが、そこにこだわっています)

特に若い世代の人達は、普段から様々な食材や食品に触れる機会が本当に少ないことが気になっています。
いつも食べているものがなくなったらどうするのでしょう?
いざとなったらお湯をかけるだけのカップラーメンを毎日食べればいいと思っているのかしら?と
想像してしまいます。

災害時であっても、出来る限り心とお腹を満たす食事をしてほしいと願っています。それが明日への希望になり活力になるからです。そのために少しでも役に立てる知識や情報を得るサポートが出来ればと思っています。