2023年も残すところ数日となりました。
大晦日には年越し蕎麦を食べる予定にしている方も多いと思います。

そばは私にとってとても縁のある作物です。
そば焼酎の商品化、深大寺そばと新島の農産物とのコラボメニュー、そばの農家レストランのコンサルティング、マルシェでのそば粉の売り方を支援など、、、思い返すと、そばとはいろいろな関わりをもってきました。
また、私は江戸ソバリエの資格を持っています。そば打ちは下手ですが、、、

今日はちょっとそばの話をさせて下さい。

お蕎麦は、そばの実を挽いて粉状にしたもの(そば粉)を水で練って伸ばして
細く切って麺状にしたものです。
よく、二八とか十割とか書いてありますが、
二八というのは、小麦粉とそば粉の割合が2:8という意味です。
十割というのは、そば粉100%で作られた麺のことです。

そばの生産量日本一は長野??

では、そば粉の原料であるそばの実(乾燥子実)が一番生産されているのはどこでしょう?

「そばと言えば、長野でしょ!」と思う方も多いかもしれませんが、、、
いえいえ、違うのです
生産量日本一は「北海道」で、国産のそばの全体の約4割が北海道で作られています。
ちなみに、収穫量第2位は長野、第3位が茨城です。(令和4年)

ですから、次回北海道に旅行に行くときは、魚介類ばかりでなく、是非お蕎麦屋さんにも行ってください。
もちろん、他の都道府県でも、お蕎麦屋さん探訪してくださいね。

栃木県 茂木町のそば畑

そばの自給率は2、3割しかない

では国内の需要に対して、国産のそば粉でまかなえているのでしょうか。
実は、国内産のそば粉の全体需要に対して、国産そば粉は約2割程度しか供給されていません。 
日本は、アメリカ(全体の40%)、中国(35%)、ロシア(17%)といった国から蕎麦を買っています。 *令和2年度財務省「貿易統計」

つまり、こんなに蕎麦好きな日本人の食べている蕎麦の大半は、輸入品ということなのです。

また、輸入品の方が安価です。
乾麺の小売価格を比較すると、だいたい国産そば粉100%のものは2倍近くの値段です。
良質な国産そば粉で作られた蕎麦はかなり高級品になっているということになります。

国産かどうかの見極め方

輸入品が大半を占めるとなると、食べるお蕎麦の原料が国産かどうかが気になりますね。
駅そばやお蕎麦屋さんの蕎麦は、国産そば粉を使っているかどうか、明記ししていない限り、
食べ手は判断できませんが、自分で茹でる麺に関しては判断することができます。

下の写真は、乾麺そばの原材料表記です。
国内製造と書いてある原材料表示は、玄そばを輸入して、国内でそば粉に製造したという意味です。
ですから、国産そば粉ではないということです。是非、原材料表示を確認してみて下さいね。

国内製造は、国産そば粉という意味とは違う

米の代わりにそばを作っても利益にならない

国産のそば粉はなぜ少ないのか、疑問に思った方もいると思います。
実は統計を見るとわかるのですが、ここ10年程、国内のそばの生産量は微増してきました。
では、この先、国産のそば粉のそばが増えるか?と言えばそうとは言えないのです。
微増した要因は、米の減反政策による代替作物として「そば」が作付けされてきたことが影響しています。

減反を促すために、転換した面積に応じて、国から生産者に「水田活用交付金」が支払われてきました。
この減反政策がきっかけとなり、北海道の幌加内のように蕎麦の名産地となった地域もありますが、そばの作付面積は全国的にみると、あまり増加したとは言えません。
なぜなら、そばは単価が安く、気候の影響を受けやすいので年によって収穫量の変動が大きくなること、
ある程度大規模な面積で栽培しないと利益にならないという点がネック
になっています。

更に、2022年度から国が主食用米からの転作を促すため農家に支払ってきた、「交付金」の対象が見直されることになり、5年間に一度も水を張っていない農地を支払い対象から外す方針を決めました。
つまり、交付金を受け取るためには、1か月以上コメを作付けするのと同じ程度、水を張る必要があるのですが、そば畑は一度でも水を入れてしまうと、湿害といってそばが作れなくなってしまうので、そばを米の代替で作っても転作の交付金はもらえないことになってしまったという訳です。
ですから、これまで転作でそばを作っていた生産者も、そばを作らなくなるだろうとある県の農政担当者は私に話をしてくれました。

山形県の出羽かおりの新そば

国産そば粉を大切にしてほしい

私達日本人が食べている蕎麦のほとんどは、海外からの輸入に大きく依存していますが、この状況がこの先もずっと続くとは限りません。
世界的な気候変動や社会情勢により、輸出国がこれまでのように売らなくなる可能性も高くなってきているからです。このような国際事情を鑑みると、私達日本人のそばの需要に対して原料は供給不足になっていく可能性が大きいといえるでしょう。それにつれて、国内産そば粉はこれからもっと価値が高くなっていくでしょう。

私達がこれからも蕎麦を食べていくには、そばの自給率を上げなければなりません。
そのためには、まず国がそばの生産支援していくことが必要とされています。
しかしそれだけは不充分なのです。
同時に、消費者である私達一人一人が、国産そばにもっと目を向けていくことも重要です。

そばは世界中で食べられている雑穀で、フランスではガレット、ロシアではカーシャなどポピュラーなそばを使った食べ物があります。しかし、そばの実を粉にして麺にして食べているのは日本だけです。

ですから、蕎麦は日本人にとって、重要な食文化の一つです。
お蕎麦は冷たいもの、温かいもの、汁につけて食べたり、ぶっかけたり、巻いてみたり、、、
本当に様々な食べ方がありますし、まだまだ新しい食べ方や使い方がもっと広がる可能性を秘めています。
グルテンフリー食品でもあるので、今後海外からも注目されていくことでしょう。

お蕎麦の美味しさや楽しさを知っている日本人が、もっと原料であるそば粉やそばの生産のことを考えて欲しいと思っています。
また、国産小麦が少しずつ注目されてきたように、国産そばももっと増えていくように願っています。
生産地や生産者を育むのは、国ではなく、消費者一人一人なのです。

夏野菜のねばねばぶっかけそば(オリジナル)
モロヘイヤと青のりととろろのぶっかけ汁、ヴィーガン仕様ですね。

こんなにも身近な食品であるにも関わらず、意外にそばの事を知る機会がないので、是非お伝えしたいと思い、書かせていただきました。
ちなみに、我が家の年越し蕎麦は、鴨のつけ汁蕎麦です。