私は「かわにしオーガニックビレッジ推進協議会」の事業支援をしています。
その一環として去る7月28日に、「川西町の持続可能な農と食について考える会」を開催しました。

この会は、川西町が推進しているオーガニックビレッジの取組みを推進するために、この事業についての理解を深めていただくための会です。
(オーガニックビレッジとは、有機農業の生産から消費まで一貫し、農業者のみならず事業者や地域内外の住民を巻き込んだ地域ぐるみの取組を進める市町村のことを指します。農林水産省は、このような先進的なモデル地区を順次創出し、横展開を図っていく考えです。)

なぜこのような会を開催したのかというと、
このオーガニックビレッジの取り組みは、農業者だけでなくその地域内外の住民と一緒に推進していくものなので、関与する方々への理解が不可欠だからです。
市町村によってオーガニックビレッジ推進協議会の構成メンバーは異なりますが、農業者だけでなく、消費者、飲食店、加工業者、流通業者など多様なメンバーが参画しているケースもがあります。

この協議会が円滑に機能するためには、その足場固めが必要なので、このような会を企画しました。
この会のポイントは以下の2点です。
丁寧な説明で趣旨と内容を理解してもらう
コミュニケーションができるような下地を作る 

この足場固めを飛ばして、いきなり事業を推進しようとすると、協議会が機能しなくなったり、一部の人達は興味関心が薄れて出てこなくなったりしてしまいます。
実際に六次化や地域産品開発で地域の協議会の失敗例を沢山見てきたので、この足場固めが大事だと声を大にしていいたいのです。

そこで川西町のオーガニックビレッジ推進協議会のアドバイザーであり、コミュニケーションの場作りの専門家(ワークショップデザイナー)でもある私から、このような機会を創ることを提案しました。

オーガニックビレッジとは?

まず導入として、川西町のスタッフから、川西町のオーガニックビレッジ推進事業についてのこれまでの経緯や事業の説明をしてもらいました。
なぜ、川西町がこの事業をすることになったのか、何を目指しているのかについて話してもらいました。

町役場からの説明

このオーガニックビレッジ事業は、農林水産省が平成3年5月に策定した「みどりの食料システム戦略」がベースになっています。ですから、次に緑の食料システム戦略についても説明をしました。

みどりの食料システム戦略について説明

みどり戦略についての農林水産省の資料は一般の方には、パッとみただけでは理解しづらいところがあります。ですから、わかりやすく噛み砕いて説明する配慮が必要です。
みどりの食料システム戦略については私からシンプルになるべくわかりやすく説明をしました。

農業者(慣行、有機)、農業高校関係者、一般市民、卸売り業など様々な立場の人が参加

有機という言葉や有機農業へのバラバラな認識を少し整える

また、有機という言葉や有機農業についても触れさせていただきました。

そもそも、有機という言葉や有機農業、有機農産物に対する認識は人や立場によってかなり差があります。
消費者の方々は何となくイメージで捉えているだけの場合も多いですし、誤解している方々も少なくありません。

農業者も捉え方がかなり異なります。昔の有機農業者の考え方と、最近の有機農業者の考え方はかなり異なりますし、現在の有機農業者同士でも考え方は本当にバラバラです。さらに、慣行農家が有機農業に対してもっているイメージも様々です。

地域内で、有機農業を推進していくためには、有機という言葉がなんとなくふわっとしたイメージだけではなく、一定の共通したイメージようなものは必要だと思います。認識を統一することは出来ませんが、同じ方向に少しずつ寄せていくことは可能です。

有機や有機農業についての話は、
農業者が話すと、農業者からの立場になることと、自分の想いが入ってしまいがちです。
(もちろんそうでない人もいますが)
行政側が話すと、堅くてわかりにくい話になりがちです。
ですから、なるべく中立的な立場でわかりやすく説明のが、理解をしてもらいやすくなるポイントだと考えています。

世界の潮流と日本の現状いついて説明

マクロ的な話、ミクロ的な話で有機農業のイメージを明確化

次に、有機農業について知ってもらうために、世界や日本が今どのような状況になっているか外部環境についてもお話しをしました。
世の中がどうなっているのかを知ることも大切だからです。でも、農業者の中でもマクロ的な状況についてはあまり知られていません。

さらに、世界や日本の状況だけでなく、すぐ近くの身近な地域がどうなっているのかも知っていただこうと考え、置賜地域の周辺市町村(南陽市、米沢市)の有機農業の取組み事例の発表もしていただきました。

取組み事例紹介では、慣行農業と有機農業とどう共存してきたか、どのように販路開拓してきたか、栽培方法などかなり具体的な話をしていただいたので、農業関係者にとっては、参考になったことと思います。

今回世の中の様子を知るために、ミクロ的な話とマクロ的な話をすることで、有機農業についてのイメージが明確になるようにしました。

米沢市 小関氏
南陽市 渡沢氏

理解を深めるための工夫

事業の理解を深めてもらうためには、大切なことがあります。
説明側がいくらわかりやすく説明したとしても、その説明が一方的な「周知」「情報提供」では不充分です。
そこでもう一工夫して、「納得」や「共感」に繋げるアクションがあると、理解が深まります。

また納得してもらうには、「なぜその事業を行うのか」というWHYがとても重要なのですが、公共事業の場合は、この部分の説明が弱い、伝わりにくいと感じることがよくあります。そこを丁寧に説明することも欠かせないのです。

もし、WHYへの理解があれば、「ああ、こういうことなのね」と納得が産まれます。そこからだんだんと共感を増やしていくことができます。

そこで、今回は、オーガニックビレッジの事業の説明のあとに、WHYを説明したり、納得や共感に繋げる「意見交換会」を行いました。

各グループには町の担当者にも入ってもらいました

よそ者、中立な立場な人材がファシリテート

意見交換会やワークショップを行う際には、多様な立ち場の人が自分の意見を言いやすい場を作ることを意識しています。
そうでなくても地域は微妙な人間関係で成り立っている部分があるので、忖度があったり、本音が出しにくいのです。
地域の中の人がファシリテートするとどうしても「あいつは。。。」みたいな先入観や感情を持つ人が出てきやすくなります。

ですから、自分で言うのも変ですが、私のようなよそ者で、中立的な立場の人間を上手く使ったほうがよいと思います。その方が摩擦が少なくスムーズに場を作れるからです。

意見交換会のポイント

意見交換会は、理解の深度を深めることと、コミュニケーションの下地作りをポイントとしました。

まず、前半の説明を聞いて不明だった点、疑問点を洗い出してもらい、どのくらい理解できたか確認しました。それに対して役場スタッフから説明をして、理解を深めてもらうようにしました。
さらに、それぞれが意見や感想を話し合って、メンバー意識の醸成や、コミュニケーションの円滑化ができる下地を作れるように図りました。

オーガニックビレッジ事業を推進していく鍵

これまで、私は20年近く農業、農産物、地域活性化の仕事に関わってきましたが、地域内の繋がりの基になるのは、対話をし続けることであり、また対話から産まれる「ゆるい繋がり」の構築だと思っています。

市町村によってオーガニックビレッジを推進する理由は同じではありませんし、基本条件は異なります。
しかし、推進していく方法論は異なっても、これは共通だと考えています。

農村地域では、昔ならば「寄合い」や地域コミュニティの行事によって地域内のコミュニケーションがとれていましたが、だんだんそのような場がなくなり、コミュニケーションの機会が薄れてきました。
さらにコロナによってますます隣近所とのコミュニケーションがとれにくくなってしまっているのが現状です。ですから、町でも農村でも対話の仕方や繋がり方という課題は一緒とも言えます。

コミュニケーションや対話がないと、憶測や思い込みが増幅して話がややこしくなってしまいます。
そうでなくても、農業者は基本的に個人事業主で、主張もキャラも強い人が多いので、その人達だけでもまとまりをつけるのは難しいのに、地域の他の人も入ってくるとますます調整が難しくなります。
繋がっていくためには、いきなりではなく、なるべくゆるく、少しずつが重要なのです。

有機と慣行農業者の距離を縮める

さらに地域内には有機農業者だけでなく慣行農業者も存在します。
有機農業を拡大させるためには、有機への転換者が増えるような仕組みを整える必要もあります。

しかし仕組みを整えるだけでなく、有機と慣行農業者が反目しあわないで、一緒にできること、ゆるく同じ方向を向いていけるように努力することが、地域の未来を創っていくことになります。
そのためには、何をゴールとするのかを一緒に考えたり、共通項を見いだしていくようにします。

3月には置賜地域の若手の慣行、有機農業者などを対象にしたワークショップを行いました。

「有機農業者と慣行農業者が一緒に有機農業を考えるワークショップ」
https://courtyard.co.jp/works/workshop/%e5%a4%9a%e6%a7%98%e6%80%a7%e6%99%82%e4%bb%a3%e3%81%ae%e8%be%b2%e3%81%a8%e9%a3%9f%e3%81%ae%e3%83%af%e3%83%bc%e3%82%af%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%97/

5月には同町で農業委員会向けの有機農業を知るワークショップを行いました。

「未来の農地利用を考える会」 川西町農業委員会でのワークショップShttps://courtyard.co.jp/works/workshop/%e6%9c%aa%e6%9d%a5%e3%81%ae%e8%be%b2%e5%9c%b0%e5%88%a9%e7%94%a8%e3%82%92%e8%80%83%e3%81%88%e3%82%8b%e3%83%af%e3%83%bc%e3%82%af%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%97/

このような地道な働きかけはすぐには効果がなくても、少しずつ共通項が見つかるためのステップだと考えています。

オーガニックビレッジ事業における行政の役割を支援

オーガニックビレッジ事業は市町村が宣言する性質上、行政がイニシアティブをとらなくてはならない部分が大きい事業です。しかし、あくまで主体は農業者と地域住民などです。
様々な立場で多様な考え方を持っている人達を繋げたり、調整するのが行政の役割だと考えています。

しかし、これまでこの事業を支援してきて感じるのは、
行政も人手も足りなかったり、デリケートな地域社会の中の人間関係などがあり、やりにくい部分があるのも否めません。
(都市部と農村部では違うかもしれませんが)

また、このビレッジの事業が、地域活性と農業関係の活性の両方の側面をもっている事業であるため、地域課題の解決の知見と、農業分野の知見の両方が必要なのですが、ビレッジの市町村の担当事務局が、その両方の知見や情報をもっていることは少ないのも、課題になっているのだと考えています。
(例えば、農政課が担当するのか、産業振興課が担当するのかです。)もし、産業振興課が担当であれば、農業関係の知見や情報を知らないのは仕方ないですし、どうこの事業を推進すればいいのかわからなくて困ってしまうこともあります。

オーガニックビレッジ事業では、私のようなアドバイザーや、次代の農と食をつくる会のオーガニックプロデューサーのような外部からの支援も必要になるのだと実感しています。

中立な立場の人材を是非上手く活用してほしい

私はこれまで様々な農産物のプロデュースや販路支援を行ってきました。
慣行、有機どちらの生産者や関係者の方々とも付き合ってきました。なぜなら食と農が繋がることが私の会社のミッションなので、どちらかとしか付き合わないという考え方ではありません。

さらに、六次化や食による地域活性化事業などで行政機関とも沢山仕事をしてきたので、行政の考え方や言い分も理解できます。

オーガニックビレッジの事業は、農業者と地域の人々、行政が上手く繋がってこそ上手くいくものです。
それぞれの立場や考え方を理解した中立的な立場の人間が役立てることが結構あると思っています。

会の成果

実は川西町の場合、この事業は2年目なのですが、最初にこのような会をやらないで事業をスタートさせてしまったため、オーガニックビレッジって何をやっているのかよくわからないという声を聞いていました。

そこで、「今からでもきちんと理解をしてもらうための会をやりましょう」と開催した結果、今回の会を催すことになりました。

すると、次のような成果がすぐに現れました。
この会を行った結果、推進していくスピード感が変わった気がしています。

*行政スタッフが参加者の様々な意見を聞いたり、
 地域にどのような役目ができる人がいるかがわかったことで、
 何をしたらよいのか、事業の課題や方向性がより明確になった。
*地域内の農業者から、有機への転換に興味を持つ人が複数人現れた
*より現実的で目標に近づきやすい方向性に事業計画を一部修正でき、
 本年度すぐにできることを具体化することができた。

今回の会を通して、私自身もこのオーガニックビレッジ事業は、行政だけ、農業者だけで作っていく事業ではないということを改めて感じることができました。