能登半島地震で被災された方々におかれましては、心よりお見舞い申し上げます。

今回の地震を通して、
防災について改めて考える機会となったのではないでしょうか。
「備えあれば憂いなし」という言葉がありますが、何をどう備えるかはとても重要なことです。

東日本大震災以降、災害時の食については、かなり考え方や食品が進化しています。
災害時用に日頃からストックしておくとよい食品(ローリングストック食)として、
「大豆ミート」の話をしたいと思います。

大豆ミートのドライカレーとアルファ米

非常食と災害食

まず最初に、災害時の食についてお話しします。
災害時の食は、起こり得る状況を想定して用意することが重要です。
大別すると、
命を繋ぐための「非常食」と、インフラが復旧するまでの期間の「災害食」の2つに分けて、
準備をしておきます。
(※人によって分け方が異なる場合もあります)

簡単に説明をすると、
非常食はすぐにそのまま食べられる食品で、避難用リュックなどに入れておくとよいものです。
(乾パン、ビスケット、カロリーメイトなど)
災害食は、日頃から災害に備える、特に家庭内避難時のため、最低限のインフラで使れる食品です。
レトルト食品、缶詰、フリーズドライ食品などが挙げられます。
これらは、自宅にいても水が充分にない、カセットコンロしかないなどの状況で作るものです。

災害食

災害の規模にもよりますが、災害が発生してから電気、水道、ガスなどのインフラが整うまで、
およそ1週間以上かかると考えると言われています。
ということは、普通の食事に戻るまではかなり長い時間かかる訳なので、
災害食はかなりの量を確保する必要があります。

非常時は、まず命を繋ぐことが目的ですから、すぐに食べられるもの、
そしてエネルギー源となる炭水化物を摂取する必要があります。
しかし、例えばおにぎりなど炭水化物ばかりだと、栄養のバランスの崩れが懸念されます。

災害食は、非常時において健康を維持していくために、
最低限のインフラで、どうやって栄養バランスがとれる質のよい食を作れるかの工夫が大切なのです。

災害時は非常食から災害食にだんだんと移行していく訳ですが、
災害時に肉や魚など生鮮食品はまず手に入りません。
ですから、どうしてもタンパク質やビタミンミネラル類が不足しがちになると言われています。

そこで、災害時に備えられるタンパク質の食品として、「大豆ミート」が役に立ちます
植物性たんぱく質を豊富に含んでいて、常温保存できるからです。


ローリングストック

ローリングストックという言葉を聞いたことがありますか?
普段の食品を少し多めに買い置きしておき、
賞味期限を考えて古いものから消費して、消費した分を買い足すことで、
家庭で一定の量の食料を備蓄する方法です。


ローリングストックに向く食品のは、
缶詰、乾物、レトルト食品、フリーズドライ食品など、常温で保存がきく食品です。
どれも日頃から料理に使えるものです。
ローリングストック食については、前に書いていますので、是非こちらもご一読下さい。
https://courtyard.co.jp/letter/rolling-stock-food/

大豆ミート

大豆ミートは(SOY MEAT)は肉の代替食品で、肉の替わりに様々な料理に使うことができます。

大豆ミートには、色々なタイプがあります。
まず、ドライタイプ、ウェットタイプという水分量が異なるタイプのものがあります。

またミンチ、フィレ、ブロックなど様々な形状のものがあります。
どれも肉の形状に似せて作られていて、料理によって使い分けられるようになっています。
ミンチ(ひき肉)タイプならば、麻婆豆腐、ハンバーグ、ドライカレーなど、
フィレやスライスタイプならば炒めものなど、
ブロックタイプならば、唐揚げ、カレー、酢豚などに使えます。

大豆ミートで災害食

大豆ミート、中でもドライタイプは常温保存が出来て、賞味期限も長いので、
「ローリングストック」しておき、災害時に備えるのに向いている食品です

さらに災害時なくても、日常生活で「お肉を買い忘れた!」という場合も、大豆ミートが便利です。
もしかしたら、ちょっと大豆臭さが気になったという人もいるかもしれませんが、
近年だいぶ改良されてきて使いやすくなっています。
また、大豆臭さは調理の工夫や味付けで解決できます。
昔食べて今一つだったという方も再度チャレンジしてみて下さい。

私の大学講義でも、ローリングストックや、災害食についての座学のあとに、
ワークショップも行いました。
知っているだけでは、いざというときに出来ないので、
平常時に実際に使ってみる、食べてみることは大事なことです。

災害食にも、いろいろな料理や作り方がありますが、
大学では、ローリングストック食(大豆ミート)を使った災害食作りというテーマで、ドライカレーを作りました。

大豆ミート ドライカレーの材料(グリンピース缶、マッシュルーム缶はなくても)

できれば野菜も一緒に摂取したい

先程も話をしましたが、災害時にはビタミン・ミネラル類が不足します。
ビタミンやミネラル類を多く含む食品は野菜類です。
生鮮野菜は入手困難ですので、ジャガイモ、タマネギ、ニンジンなどの常備菜や、日頃からトマトジュースや野菜ジュースをローリングストックすることをお勧めしています。
(トマトジュース缶や野菜ジュース缶は、長期保存タイプの缶もありますが、
通常の缶ジュースでも賞味期限がだいたい2年以上です。)

それ以外のローリングストックにお勧めの野菜については、こちらに書いてあるのでご覧ください。
「災害時に役立つ野菜の保存食」
https://courtyard.co.jp/letter/begehozon3-kansouyasai/

大学での災害食
大豆ミートドライカレー ご飯はアルファ米

このドライカレーの調理時間は、10分程度です。
あっという間に完成してしまったので、学生は驚いていました。
そもそも災害食というのは、究極の時短・簡便食なのです。

ほとんどの学生は「大豆ミート」を見たことも、食べたこともなかったのですが、
作って食べた感想を聞くと、「想像以上に美味しい」、「簡単」という意見が大半を占めていました。

アルファ米をお湯でもどす

大豆ミートは通常の肉の価格と比較しても、高価なものではありません
価格も内容量100gで、380円程度(小売価格)です。(メーカーによって異なりますが)
ドライタイプのものは浸水すると膨張するので、10gでもかなりのボリュームになります。
例えば、麻婆豆腐や麻婆ナスならば、@10g~15gという少量で作ることができますので、50円程度。
豚挽肉(@25g程度)で作る場合と比較しても、さほど変わらない価格で作れるといえるでしょう。
大豆ミートを是非一度試してみて下さい

プラントベース

そもそも近年大豆ミートが有名になったのは、プラントベースという食の考え方がきっかけです。
プラントベースとは、植物由来の原材料から作られる食品のことを指す言葉です。
植物由来の原材料を使用して、畜産物や水産物に似せて製造されるもので、
大豆ミートは大豆からつくられているプラントベース食です。

近年では、ハンバーガー店などで、牛肉の替わりに大豆ミートを使ったハンバーガーなどが
販売されているのを見かけるようになりました。

大豆ミートが作られるようになったのは、
動物由来の食品ではなく、なるべく植物由来の食品を食べようという世界的な潮流があるからです。
なぜそのような流れが産まれたかというと、
肉などを食べるよりもプラントベースの食品を食べる方が環境負荷の低減になるという地球環境への配慮、タンパク質を摂取する際も、動物由来の食品から摂取するよりも植物由来の食品から摂取したほうが、ヘルシーであるという健康面のニーズの二つがあります。

大豆ミートの原料

次に、大豆ミートは何から出来ているのか、原料の話に触れたいと思います。
一般的な大豆ミートの主原料は、「脱脂加工大豆」(大豆から油を搾ったあとのもの)です。
また、大豆ミートに使用されている脱脂加工大豆は、輸入品もしくは国産です。

大豆には油脂が豊富に含まれていて、乾燥豆の約20%が油分です。
その油を搾油したあとの大豆を、粉末上に砕いて高温高圧をかけて
成形して作られたのが、脱脂加工大豆です。

脱脂加工大豆(株式会社日清紹介HPより)

さらに大豆ミートは、肉のテクスチャーに寄せるために、
油脂や小麦粉、トウモロコシ粉などを加えて混ぜている場合もあります。

実は、世界の油の過半数は大豆油とパーム油(やし油)が占めています。
それだけ世界で大量に大豆から油を搾っているということは、
大量の脱脂加工大豆ができるということです。
では、この脱脂加工大豆は、大豆ミートの他にどのように活用されているのでしょうか?

脱脂加工大豆

もともと脱脂加工大豆は、肥料として用いられていましたが、
現在では飼料用、そして人間の食品に活用されています。

私達の最も身近なところでは一般的な「醤油」がこの脱脂加工大豆から作られています
その他にも味噌、豆腐、調味料の原料などに用いられていますし、
脱脂加工大豆はさらに加工されて各種大豆加工品となり、多様な食品に混入して用いられています。

脱脂加工大豆は、コストが安く、うま味のもとであるタンパク質を多く含んでいます。
また、大豆を絞った後で平らに潰されたような形状をしているので、タンパク質が分解しやすくなるので、発酵食品などは短期間で熟成できて効率性もよいというメリットもある原料ですので、重宝がられています。

醤油などに使われている脱脂加工大豆の多くは海外からの輸入品で、主な輸入元は米国です。
世界第二位の大豆生産国である米国の大豆の90%ぐらいは遺伝子組み換えだと言われています。
そこから生れた脱脂加工大豆も、遺伝子組み換え食品であることは、容易に想像がつきます。
なお、現在日本では、遺伝子組換え食のダイズの販売、輸入が許可されています。

遺伝子組み換え食品は安全か安全でないかという議論はいろいろあるようですが、
国としては、組換えDNA技術の応用による新たな有害成分が存在していないかなど、遺伝子組換え食品等の安全性について、食品安全委員会の意見を聴き、総合的に審査をして輸入許可を出しています。
(それをどう捉えるかはその人それぞれだと思います。)

日本には昔からプラントベース食がある

大豆ミートは、脱脂加工大豆を肉のように加工できる技術が開発されてできた「新しい代替食品」です。
しかし、日本の食文化を紐解くと、代替肉という考え方は決して目新しいものではありません。
日本では仏教が伝来して以来、何度も肉食禁止令が出されてきました。
肉食が禁止されている間、仏教の戒律に従って動物性の食品を使わない料理として発展してきたのが
「精進料理」です。
ですから精進料理には、肉や魚に見立てて植物性の食材で調理する「もどき料理」があります。
(雁もどきや、こんにゃく刺身、うなぎもどきなどが有名です。)

普茶料理(精進料理の一種)の肉もどきの一品(東京 普茶料理 梵にて)

プラントベースが流行して、大豆ミートのハンバーガーなど西洋のもどき料理がクローズアップされていますが、日本に昔からある精進料理にも一度目を向けてみるのもよいかもしれません。

大豆ミートは災害時に役に立つという話からプラントベースまで、大豆ミートを通して食の世界のことを
少し掘り下げてお話しをしました。

コートヤードでは、農や食に関する身近で役に立つ話をフラットな立場でわかりやすくお伝えしていきたいと考えています。