2023年11月27日に開催された福島県主催の「有機農業産地づくり推進セミナー」にて
基調講演をさせていただきました。
当日は、行政関係、生産者、一般消費者など100名を超える方々にご参加いただきました。
それだけ有機農業の推進に関心があることを改めて実感しました。

農水省が令和3年に制定した「みどりの食料システム戦略」を踏まえて、
地域ぐるみで有機農業に取り組む産地(オーガニックビレッジ)創出のための
支援事業が「オーガニックビレッジ推進事業」です。
令和5年度には、約100市町村がオーガニックビレッジ宣言をしています。
来年度はさらに多くの市町村が宣言する予定です。

オーガニック推進協議会のアドバイザーとしての活動

私はその中の一つの市町村である山形県東置賜郡川西町のオーガニックビレッジ推進協議会のアドバイザーとして数年にわたり関わっています。
今回の講演では、これまでアドバイザーとして行ってきた内容をご紹介して、オーガニックビレッジをどう実現させていくかのヒントにしていただくことが目的でした。

有機農業が推進することは、有機が「特別」でなく「普通」になっていくこと

有機農業や有機農産物というと、まだまだ特別なものというイメージですが、
有機農業が推進していくということは、有機が普通のものになっていくということです。

こういう話をすると、新田さんは有機農業側の人なの?と思われるかもしれませんが、
私は有機とか慣行とか関係なくお付き合いをしていますし、これまで常にフラットな立場で、農と食を繋いできました。
有機農業を推進していくことは、私達の持続可能な食の未来を紡いでいく上で、重要な取り組みの一つであると考えています。

なぜ今、有機農業を拡大しようとするのか

地球温暖化対策はまったなしの状況です。地球は沸騰状態にあるともいわれています。
そもそもこのような地球環境の変化を引き起こしたのは、「人間活動」によるものであり私達の責任です。
大量生産大量消費、利便性の追求などによる大きなツケが回ってきたとも言えます。
地球環境問題の解決するための一つの大きな方向として、農水省がみどりの食料戦略の中で、「有機農業の推進」を掲げているわけです。

オーガニックビレッジに必要なのは多角的・広義的視点

オーガニックビレッジ事業は、農業者だけでなく、加工流通、消費者が一体となって、オーガニックなまちづくりを実行していくことが求められています。
つまりこの事業は、これは単なる農業政策ではなく、地域政策でもあるわけです。
ということは、両方の視点で事業を考えていかなければならないということです。

今回の事業は主に農政課が担当部署になっている市町村が多いようですが、このオーガニックビレッジ推進の事業は、地域振興や町づくりの視点や一般住民をどう関心や接点をもってもらうかといった通常の農政課や農業担当以外の事業も含みます。

私自身、これまで川上から川下まで農と食を繋ぐための沢山の仕事をしてきました。
農産物のプロデュース、六次産業化、マーケティング支援、地域資源を使った特産品づくり、マルシェなどに携わってきたのですが、考えてみると、農業と地域政策の両方に携わってきた経験とノウハウがたくさんあることに気づきました。
ですから、この事業は私がお役に立てる部分が多いと感じています。

オーガニックビレッジ推進に必要な視点

農業者だけでなく、加工業者や小売店、一般住民など立場の違う人達と、「オーガニックなまちづくり」を一緒に考えていくためには、一番何が必要なのでしょうか。

私は、それぞれが立場を超えて多角的・広義的な視点をもつことだと思います。
細かい戦略を立てても人が動かなければ何もかわらない。そう思うのです。

とかく農業者も消費者も細かい違いについて論じたり、批判しようとすることがありますが、地球が沸騰し、食糧危機も絵空事ではなくなってきた今、もうそのようなことを言っている場合ではありません。

地球全体の問題に立ち向かうには、有機だとか慣行だとか、農法が違うとか、認証がいるかどうかという細かい事の違いに突っ込みするまえに、自分達がやるべきことが何なのか、立場や考え方を超えて一緒にできることはないのかと広い視点で考えて、協力しあって解決していくことが求められています。

でも、農業者は直近の課題の解決にはすごく積極的ですが、広く多角的な視点で考えることは苦手な方が多いようです。また、消費者は、食に対する基礎知識の欠落と情報氾濫で、ちゃんと有機農業について理解していない人が多いのが現実です。

地球が悲鳴を上げ、世界のあちこちで戦争が起こり、この先どうなるのかも予測不能になりつつある時代の中で、自分達の食について、広い視点でひとりひとりが自分事にして考えなければならないのです。

どうしたら多角的広義的な視点で、対立することなくこの大きな課題を解決していけるのか、
講演では、私自身が考えるポイントと実際にやってきたことを紹介いたしました。

有機農業者も多種多様

以前、農水省との産官学のプロジェクトにも参画させていただいたこともありますが、その時に、世代によって有機とという言葉のニュアンスや目指すところがかなり違うことを感じました。

少し乱暴な言い方になりますが、現在70歳以上の所謂レジェンド世代は、思想に基づいて有機農業を実践してきた方々です。高度経済成長期にあって、有機農業は超マイナーでしたし、すごく苦労をされてきた方達です。一方で、40代以下の人達は、高度経済成長や大量生産時代の歪みを感じてオーガニックなライフスタイルの実現を目指しているのだと思います。≪●●あるべき≫という考え方と、≪〇〇でありたい≫という考え方は似ている様で違うのです。
さらに、同じ年代でも農業者によってそれぞれ考え方や目指すところが異なります。
つまり、有機農業者は多種多様な人達なのです。それを一つの方向にまとめていくだけでも、かなり知恵と工夫が必要になってきます。

オーガニックビレッジを推進していくために

私は、推進協議会のアドバイザーとして、事業計画についてのアドバイス、具体的なアクションプランについても企画運営の支援をしています。
所謂コンサルタントと呼ばれる人達の中には、「こうしたらいいです」とアドバイスするだけの人もいると思いますが、私は年間を通じて支援をしたり、一緒に活動しています。

オーガニックビレッジの推進は、こうしたらよいというセオリーがないと思っています。
その市町村によってバックグラウンドがかなり異なるからです。
ではどうするのか?

町が変わるためには、「人」が変わっていかなければなりません。
ただ施策を作っても、人が変わるわけではないので、工夫が必要です。
そのポイントについてもお話しさせていただきました。

今回の講演が、これからオーガニックを推進していくためのヒントになったならば幸いです。